秋の野菜を描いた一枚の絵がある。太くてゆがんだ大根、丸々とした南瓜。
野菜や果物を描いた素朴で温かみのある絵が有名。「ヘタウマ」とも評される独特のタッチで、書と絵を組み合わせた作品を多く残した。
武者小路実篤が晩年に描いたこの絵には温かさがにじみ出ている。実際、飾らない率直な性格で、周囲から親しみを持って「実篤さん」と呼ばれていた。
武者小路実篤(1885〜1976)は、明治・大正・昭和を生きた作家・詩人・画家。
明治・大正・昭和という時代を九十年間生き抜いた彼は、小説を書き、詩をつくり、絵を描き、さらには自分の理想とする村まで実際につくってしまった人物。
「仲よき事は美しき哉」
実篤が好んで色紙に書いたこの言葉は、あまりにも有名。
一九一〇年、志賀直哉らとともに雑誌『白樺』を立ち上げた実篤は、「人間はもともと善いものだ」という、一つのことを信じ続けた。
暗い現実ばかりを描く文学が流行していた当時、彼のそのまっすぐな姿勢は「甘い」と批判されることもあった。それでも実篤は曲げなかった。
そして、それを言い続けた人間が、一九一八年に宮崎の山中に「新しき村」を建設した。みんなで働き、みんなで助け合う、という理念のもと、理想の共同体を宮崎の山中に実際に建設し、思想を頭の中だけに留めず生活の場で検証しようとした。
村は形を変えながらも今日まで存続している。
効率や競争が幅をきかせ、憎悪と分断が世界を覆う今こそ、この素朴な信念の重さを再評価すべきなのではないか。
あのゆがんだ大根の絵を前にすると、不格好でいい、まっすぐでいい、と実篤は言いたかったのではないか、と。














