先住民族を含めても、米国は移民により成り立ち繁栄した数少ない国家だ。彼ら移民は、移住先の地を移住元の地とよく似たものにする。一般に、先祖の多様性は繁栄が予測される。だが、価値観の多様性は社会的摩擦を生む原因にもなる。安部公房は『砂漠の思想』の中で、米国には一種独特な、解放された自由な「人民神話」という伝説があると述べた。▼大統領候補の演説集会からは、米国では民主主義が定着しているように見える。だがこれは、旧大陸での民主主義が意味するイメージとは根本的に違う。民主主義は、旧世界では権力を弱めるための革命だったが、新世界では逆の意味をもった。民主制は、繁栄を促進するエビデンスではない。それは豊かな国の贅沢品、繁栄の原因というよりも結果なのだ。▼安部は、ジャズについて、誰の母国にもない新しい形式を、米国は急速に風俗化させた。その裏には、いかに過去を絶ち、現在に結合しようと努力したかが汲み取れる。それは統一アメリカを作ろうとする意志と照応する。しかもその形式は、奴隷の黒人たちから受け取られたものだ。彼らには、支配民族としての優越感がなく、抵抗なく受け入れ、同化させたという。▼また、今日のアメリカニズムの浸透の速さと深さからか、日本の米国との類似を指摘する。単に外部からの働きだけではなく、日本の内部に、それに照応するものが潜在し、米国の接近によってそれが誘発されたのではないか。むろん相違の方が明確だし、数も多い。だがその類似点が、相違点と比べて必ずしも小さな部分とは限らないのではという。