誰かを好きになる。

 

自分が結婚をしていたとしても

そんなものとは別のところで当たり前に生まれてくる感情。

 

それを思い知ったのは7年前。

身体の関係もないのに強烈に引き込まれた

ひとつ前の恋だった。

 

それが恋愛感情であるだけで世の中的にはNG。

周りが知ればロクデモナイと言われただろう

その恋はしかし

わたしという人間を大きく変えた。

 

人を前進させるのは正しさだけではないのだ。

 

あの恋の意味するところは死ぬまでわからないように思う。その特別さゆえに、なかなか忘れることが出来なかった。

 

 

 

それを乗り越えるときがきたのか

新しい恋をした。

 

コロナ禍の中。

姿を見ることもないオンライン会議で。

 

あの恋を上書く感情がこんな形で生まれてくるとは思ってもみなかった。

 

姿も見せず声だけで

強ばっていたわたしの心を

穏やかに惹き込んでくれた。

 

 

不思議な流れだが会うことは叶わない。

そして叶えることはできない。

 

でも会えなければそれを叶わない理由にできる。

期待もせず失望もしない。傷つかない。

 

とても楽だ。

 

 

幸せを感じることがへたくそで、どこかでそれを遠ざけているわたしには

このくらいが程良いのだ、と言い聞かせる。

 

それに何よりもこの恋は、7年もの間それ一色だったわたしの心の色をみごとに変えたのだ。

 

その穏やかな強さで。

 

わたしを次へと導いてくれるために現れてくれた。

 

 

リアルな恋をできない身にとっては

この妙な出会いは真珠のごとく

”上”からの この上ないプレゼントだと思う。

 

柔らかな貝の中で

静かに眠り目覚めればいいのだ。

 

 

 

駅で新幹線乗り場の案内を見ると

何も考えずに飛び乗ってしまいたい衝動に駆られる。

 

目的地がないことに気づいて

衝動は数秒で治まり

また人生の順路を歩き始める。

 

 

わたしの人生も、誰かの人生も

そうやってときおり揺り動かされる思いを大事に抱えながら

一日一日と駒を進めている。

 

 

誰かの存在が

わたしの存在が

意味があるのかないのか

 

知る必要はない。

 

ただ揺り動かされるだけでいい。

 

その振動が何かを動かすのだ。

 

 

 

気づけば空はこんなにも高く

季節は秋になっていた。

 

その限りない広がりの下で思うのは

 

遠くにいるその人が

遠い存在だということ

 

でもその広がりの先に

確かにその人は存在しているということ

 

日々透明さの増す空気の中で

自分の輪郭がクリアになり

 

冷ややかな風が肌を通るとき

それに答えるように

自分の身体が熱くなる。

 

わたしはここにいます

と伝えたくなる。

 

 

流れる涙はきっと感謝の涙のはずだ。