月に4000km程、車で走っています。
地方の古物市場に行くためです。
運転時間の多くは、マリア・カラスのオペラか
小林秀雄先生の講義の録音を聴いています。
私は、マリア・カラスが大好きです。
彼女の声は、純金のように比重が重く
どこまで薄く伸ばしても破綻がありません。
特に大好きなのは、ヴェルディの《運命の力》。
運転時間が長いので、オペラの大作も丸々堪能できるんです。
1958年に、マリア・カラスがパリデビューした時の記録DVDをご存知でしょうか?
素晴らしいとしか言いようのない映像です。
第一部は、オペラのアリア集。
一曲目は《ノルマ》の「カスタ ディーバ/ 清らかな女神」。
オペラのヒロインは、大抵大袈裟な運命に翻弄され、複雑なシチュエーションに置かれています。
そんなシチュエーションの人生を舞台上で成立させる(そういう人が、ここに生きていると観客が感じられる、ってこと)のは、大変に難しいことです。
《ノルマ》は、ローマの圧政に苦しむガリア(フランス)の一地方の教主の娘で巫女の頭。
ですが、ローマ軍の総督と密かに恋をして、二人の子供をなしています。
この「カスタ ディーバ」は、
圧政に耐えかねたガリアの人々が、蜂起しようとする喧騒の中で
ノルマが「今はその時ではない」と
群衆に神託を告げ、争いを回避させ、
国を思いつつも、愛する男を護ろうと歌うアリアです。
しかも、男の心は、すでに他の若い巫女に移っているのを知りつつ、です。
ね、とっても複雑でしょう?
コーラスの合唱団が半円形に並ぶ舞台。
半円形の真ん中が割れ、マリア・カラスが現れます。
神の遣いの神々しさ。
映像は白黒ですが、カラスは輝きに満ち
複雑で絶望的な状況に置かれた女性の、巫女として人々を導く強さ
恋する女の辛い心情を、破綻なく歌いあげます。
素晴らしい歌声です。
余計なモノや誤魔化しが一切入っていない
《音としての声》《音楽となった声》
圧倒的な歌声です。
本当に素晴らしい。
アリアを歌う時には
カラスはその女性に《なって》しまいます。
《セビリヤの理髪師》の「ロジーナのアリア」では、無邪気な若い娘の恋する喜びが
はち切れんばかりに歌いあげられます。
坂東玉三郎さんの舞台もそうですが
磨きあげられた肉体に、主人公が憑依するかのようです。
第二部は《トスカ》の第2幕の本格的な上演です。
愛する男の命を守るために、
関係を迫る悪魔のような権力者を刺し殺してしまう、美しい歌姫のドラマが演じられます。
恋人の、拷問に耐える声に耐えかねたトスカは
恋人がかくまっている政治犯の親友の居場所を、喋ってしまいます。
その苦悩、恋する女の哀れで可愛い姿。
懇願のための素晴らしいアリア!
長くなり過ぎますし
この舞台の素晴らしさを文字で表わすのは意味がないように思います。
ご興味のある方は、
EMI CLASSICSの《la callas...toujours》をご覧ください。
この時の舞台で、マリア・カラスはオナシスに見染められます。
骨董水妖
店主 白井澄子
京都市東山区古門前通大和大路東入元町367-4杉山ビル3F
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