生者盛る夜(死者の日、ハニツィオ島) | 個と全体のエンドレスワールド

生者盛る夜(死者の日、ハニツィオ島)

 

 

10月最後の日の早朝にメキシコシティに着くと

友人に教えてもらったホテルまでタクシーで移動した。

 

タクシーは混んでる道を避け迂回していた。

やはり死者の日の期間の影響か。

 

ツーリストの多くは死者の日をオアハカで過ごそうと計画する。

僕は仮装パーティにはあまり興味がなく、

どちらかと言えば伝統的な過ごし方を映像作品にしたい。

 

もう7年くらい前になるだろうか、

今は無き東京は西荻窪で旅人が集まるカフェで出会った人に

その人が撮影した”死者の日”の写真を見せてもらったことがある。

墓に装飾されたガイコツのオブジェと花。

僕はその可愛さと厳かさに魅了されたのだった。

ミチョアカン州のハニツィオ島で撮影されたものだった。

 

ハニツィオはメキシコシティから西にバスで数時間行ったところにある。

僕は住んでいたチアパス州はメキシコの東南で移動に2日はかかるため行けなかった。

メキシコ3年目にして最初で最後のチャンスだった。

 

日にちについて迷っていた。

10月31日、11月1日、11月2日、どれがいいのだろうか。

調べても誰に聞いてもわからなかったので決めうちで行ってみるしかなかった。

湖に浮かぶハニツィオ島にはパツクアロという街から小型船で行く。

パツクアロのホテルは取れないだろうと最初から諦め、首都のホテルに荷物を置いて

11月1日の夕方に発って一晩寝ずに過ごして帰ってくるプランを立てた。

 

首都の北バスターミナルでパツクアロ行きを扱うバス会社従業員に

「ハニツィオ島行きの船は間に合うかな?」

と聞いても「多分あると思うわ」

という自信を持てない返答であった。

「行ってみてダメっだったってこともあるかもしれない」と肚を決めた。

 

バスで行く途中に豪雨に合った。

色々不安だったが「どうなってもいいや」とやけくそ気味に考えた。

 

2017年11月1日  Janizuio,Michoacán

 

到着前に雨は止んだ。

バス停でタクシーの運転手に船はあるか聞くと

「今日は一晩中あるよ」とのことだった。

バス会社の人が知らなかったことの方が不思議だ。

恐らく行ったことがないのだろう。

 

船乗り場の前は歩くにも難儀なほど大規模なお祭りバカ騒ぎだった。

先祖や家族の霊と共にパーティを楽しもうという趣旨ならいいのだが、

もはや馬鹿騒ぎがしたいだけにしか見えなかった。

 

船は頻繁に出ており、30分ほどで乗ることが出来て大変安心した。

 

ハニツィオは小さな島だ。

僕は初めて江ノ島に行った時のような気分で探索した。

 

高台から墓場を見下ろした。

オレンジ色の花に装飾されロウソクの炎でライトアップされた空間。

島には大規模な墓場があるのかと勝手に思い込んでいたがそんなはずはなかった。

小さな島に必要な大きさの墓場のサイズだ、当たり前だが。

この日は一晩中小さな墓墓に人が溢れ返っている。

 

 

観光客を一切介気にしない様子で墓の前で先祖と亡き家族に寄り添う人もたくさんいる。

そんな人を見てると観光客の一人として申し訳ない気持ちにすらなる。

そして美しい姿を作品にさせてくださいとばかりに撮影を重ねた。

 

明け方の船の数は夜間ほど多くないため船に乗るまで2時間弱は待った。

首都行きのバスも途中乗り換えが必要で、流石に疲労困憊だった。

昼過ぎにメキシコシティのホテルに帰ると泥のように眠った。

 

僕には昔から

「自作の詩と音楽を織り交ぜた映像作品を作りたい」と言う思いがあった。

さらに旅の要素も加え「Calle Infinita」(終わりなき道)

と名付けたショートムービーシリーズを作っていくことを構想していた。

 

ハニツィオの死者の日は世界的にも有名だし

作品にはスペイン語詩を取り入れたいと考えていたが

やはり人の助けが必要だった。

身近に頼れる人間がいなかったため、曲を作るにとどめた。

 

それから約2ヶ月が経った時

僕はボリビア人の友人宅に部屋を借りていた。

 

僕は死者の気持ちを一遍の短い詩にしてスペイン語に訳し、

大家の娘に添削をお願いした。

 

カルラというその娘は役者であり大学院卒業見込みで

日本語学校で最もレベルの高いクラスに在籍している。

高い教養を持ち芸術にも精通する逸材だった。

 

 

小一時間で添削を終えてくれたカルラに朗読もお願いした。

落ち着きある美しい声で演じてくれた、

彼女のお陰で作品は完璧に仕上がったと言える。

 

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