シューちゃんの名前はホントはシュープなの。

リスのマークの子供ブランド『CHOOP』がお気に入りだった小学生の姉キャンが名付けた。

でも みんなが「シューちゃん」って呼ぶから きっと自分の名前はシューちゃんだと思ってた。


私の1日は 籠に掛けてある遮光生地の布を取り「シューちゃん おはよう」から始まる。

それはこの6年4ヶ月の間 ほぼ毎日の日課で

朝 仕事に行くときは娘たちが居るから 誰にとでもなく「いってきまーす」と出掛けるけど

朝の仕事から帰ってくると玄関で靴を脱ぎながら「シューちゃん ただいまー」

昼過ぎに仕事に行くときも 家にはたいていシューちゃんしか居ないから「シューちゃん いってきまーす」って言ってた。


シューちゃんは餌を自分で食べれるようになったばっかの中雛で我が家に来た。

我が家に来た時はあどけなかったシューちゃん。

シューちゃんは気が強い。
でも シューちゃんはチキン。
シューちゃんは寂しがりや。
でも シューちゃんはあんまりかまわれるのは好きじゃない。
シューは好奇心旺盛。
シューちゃんは自分が甘えたい時だけまとわりついてくる。

みんなが大事にしてくれてるのをいいことに 見事な女王様っぷりを発揮してた。


でも シューちゃんはのんびりやさんでちょっとニブい。

手の掛かる我が子だと思ってお世話してきたから 私が妹キャンとシューちゃんを呼び間違えることはしょっちゅうで

シューちゃんを妹キャンって呼ぶのはまだいいけど
妹キャンをシューちゃんって呼ぶと 妹キャンにむっちゃヤな顔されてた。


5月の連休から シューちゃんの具合が悪かった。

病院に通って 毎日3回薬を飲ませて 6月の半ば過ぎ やっと元気になって「取り敢えず薬は続けて様子を見ましょう」って言って貰えた。

薬を止めてから1週間ぐらい元気よく部屋の中を飛び回ってたかな?

一昨年ぐらいから肥り過ぎで気管の形が変型して出てたヒューヒューする音もしてなかった。

しばらくしたらまた口呼吸をするようになって鼻を痒そうに擦り付けるけど相変わらず元気。

でも 朝 餌を入れてもガッ付かなくなった。

ゆっくり昼間のうちに食べてるみたいで 体重も変わらない。

でも またヒューヒュー言ってた。

前と全く同じ症状だったから残っていた薬を飲ませた。

最近 シューちゃん 鳴かなくなったなぁー…やっぱり調子悪いのかぁー…病院連れてかなきゃ。なんて思ってた。

今になっては言い訳にしかならないけど

土日を挟んで月曜日は園の託児の仕事が入ってたから 火曜日には病院に連れてくつもりで居た。



7月3日の朝も いつもみたいに薬を飲ませた。

籠から出すときシューちゃんが私の指をちょっと噛んだ。

いつもの勢いがなくて 保定された状態でシューちゃんが小さく「ヒィー…」って鳴いた。

薬をくちばしに垂らしたら いつもは首を振って吐き出したり鼻から吹いたりするのにおとなしくて「今日はお利口さんに飲んだね」って思った。


そう思ったけど その瞬間 そのままシューちゃんが動かなくなった。

何が起こったのか解らなくて その後のことははっきり覚えてないけど

多分「シューちゃん?」とか「何で?」とか「やだやだ!」とか「どうしよう」とか叫んでたと思う。

娘たちのことも呼んだのか 私の騒がしさで気付いたのか 起きて来た。


妹キャンに「ママ、取り敢えず落ち着いて!」って言われたのは覚えてる。

何にも言わない姉キャンの顔を見て謝った気がする。

シューちゃんは姉キャンが飼いたいって言って飼って それがわかってたのか シューちゃんも姉キャンにいちばん懐いてたから。


何にも出来ないうちに仕事に行かなくちゃいけない時間になって 小さいプラケースの中にティッシュを敷いてシューちゃんを寝かした。



仕事中 あんまり現実味がなくて ちょっとぼんやりしてたかも知れない。

帰宅して「シューちゃん ただいまー」って言おうとして 現実に引き戻された感じ。

うちに居るのは動かなくなったシューちゃんで 出掛ける前にはまだ柔らかくて温かかった身体もすっかり固く冷たくなってた。


シューちゃんを手に包んで撫でる。

身体は固くて冷たくても 羽は相変わらずふさふさ。

大好きなシューちゃんの匂いもそのまんま。

いつもこんなに触ったら怒って噛み付くのに 何で噛み付かないの?なんて思った。


信じたくなくて でもそのままにはしておけないから現実としてどうするか考えなきゃいけなくて 誰かに話して頭の中と気持ちを整理しなきゃ と思った。


そんなことをしてるうちに午後の仕事の時間になった。

雨だったから園庭の掃除がなくて (掃除をして帰ると妹キャンが先に帰ってたりするんだけど)クセでまた 「シューちゃん ただいまー」って言いそうになって涙が出た。


シューちゃんを眺めながらあれこれ考える。

何でだっただろう?
病気で弱ってたのは確か。
私が思ってたよりも弱ってた?
保温が暑かった?
薬が合わなかった?
薬を上手く飲み込めなくて息が詰まった?


考えても何でだったかなんてするつもりもない解剖でもして貰わなきゃ判るわけないし 考えたってシューちゃんが息を吹き返すわけでものにそんなことばっかり考える。


玄関の鍵を開ける音がしたから玄関に行って 帰ってきた妹キャンに「ねぇ…私が殺したの?」って抱き付いた。

妹キャンが「そんなことないよ」って言って2人で泣いた。

姉キャンが帰ってくるのを待って シューちゃんを埋めた。


シューちゃんが居た部屋の窓の外で 踏まれないように壁際でベランダの下に半分掛かる場所に穴を掘って シューちゃんの好きだった豆苗を敷いて 芽が出ないように加熱したシードを一緒に入れて 豆苗の上から土を被せた。

猫やカラスに掘り返されないように優しいベージュ色のレンガを墓標代わりに2つ 蓋みたいに置いて。

毎朝 出掛ける前に「シューちゃん おはよう」ってレンガにお水をコップに1杯掛ける。




後から気付いたこと。

いちばん悲しむと思ってた姉キャンが泣いたのを見てない。

姉キャンに「泣いていいんだよ?」って言ったら「私が泣いたら ママを責めてるみたいになっちゃうでしょ?」って言った。

私が謝ったのを気にしてるんだろうと思った。

妹キャンが「帰ってきた時 ママが精神不安定に陥ってたらどうしようかと思った」って言った。

去年から娘たちには心配を掛けてばっかり。

多分 今 私がいちばん子供なんだな って 思った。



シューちゃんの居ない鳥籠を見るのが辛かった。

シューちゃんに挨拶する癖が抜けない。

思い出すのは最期に見た シューちゃんの薬を嫌がる顔と弱々しい鳴き声。

薬なんてあげなきゃ良かった。
でも 良かれと思ってあげたのに。
あげなくてもダメだったかも知れないじゃん。
仕方なかった。
…ホントにそうだった?

後悔で自分を責めて
でも そんな自分にちゃんと言い訳も浮かんでくる。

そんな自分に嫌気が差す。



私はシューちゃんの毛繕いする姿がいちばん好きだった。

前日 お天気がまあまあ良くて 窓を開けたら シューちゃんは外から入る風が気持ち良かったみたいで すごく丁寧に毛繕いをしてた。

シューちゃんは寒さに弱かったから 気温が安定したら外に出してあげようと思ってて そのまま体調を崩しちゃったから 元気になったらもっと日向ぼっこして体力付けなきゃね、なんて思って眺めてた。


ホントは丁寧なんかじゃなくて 辛くて動きがゆっくりだっただけかも知れない。







こんな日記 書きたくなかった。

いつもの嫌な夢だったら良かったのに。







実は今 雛鳥のお世話をしている。

その話は また今度。