『バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ』 | 手当たり次第の本棚

『バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ』


奇跡、まあ範囲を狭くして、キリスト教における奇跡とひとくちに言っても、内容はさまざまだ。
像が涙や血を流した、マリアや天使が姿を現した、病気などが治った、たぶん、ここらへんが定番ではあるだろう。
しかし、「死から蘇った」というと、ただごとではない。
作中、この奇跡は、イエス・キリストのみのもの、と語られている。
たしかに、聖書によると、新約はもちろん、旧約もふくめ、他人を死からよみがえらせた奇跡も、自らが復活した奇跡も、それはキリストの上だけに起こったものとなっている。
ならば、もしも、キリスト教者が死から蘇り、かつ、病人や不具者を癒し、水の上まで歩きましたと言われたら、どのように受け取ればいいのか?

ゆゆしき問題だ。

そして、ここに登場する問題の人物アントニアス14世は、「復活した」だけでなく、他者、それも主人公のかたわれを死からよみがえらせちゃうのだ。
冒頭、そのシーンから始まるこの物語、かなりスリリングだ。
また、そこへもってきて、悪魔崇拝者の影もちらついていたりするのだが……って、これは本シリーズでは定番だね。
ただ、敵のスタイルも、相手が違えば当然違ってくるので、そのあたりはうまくできている。

毎度の感想だが、これ、ホラー文庫に入ってはいるものの、やはりミステリだと思う。
悪魔崇拝者の正体など、手がかりとなる伏線があちこちに張ってあったりして、手法的には絶対にミステリ。
逆に、その分、ホラー文庫に入っていても、決して、怖くはない。

道具立ても凝っていて、今回の目玉は水圧オルガン(ヒュドラリス)だ。
うわあ凄いもん出した、と、そのセレクトにまず感動した。
なかなか思いつかないでしょう、この水圧オルガンは。
私は音楽史の書籍上でお目にかかった事しかないし、それだって大きく行数を割かれていたわけではない。
ちなみに、さらっと検索してみたところ、さすが。YAMAHAのサイト が一番詳しいようだ。
どんな音がするのか、切に聞いてみたい。
作中、ロベルトが、水圧オルガンの演奏方法がわかった、とうっとりしているシーンはとても共感する。

奇跡の種明かしなどもこのシリーズの醍醐味のひとつだが、正直、2巻~3巻より、本巻の方が仕掛けも面白く、ストーリー展開もわくわくさせられる。
まあ、仇敵となったかの人も、また登場してくるのだろうけど。


バチカン奇跡調査官 千年王国のしらべ (角川ホラー文庫)/藤木 稟
2011年7月25日初版