『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』 | 手当たり次第の本棚

『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』


デッドマンズ・チェストとは、要するに「しびとの箱」(より具体的にはシーチェストすなわち船員が身の回りの品を入れる箱で、いわゆる海賊の宝箱でもある)であり、かの有名な『宝島』でうたわれる不気味な歌の歌詞にある、あれだ。
『宝島』では、宝にかかわる海賊が殺されたというような状況を暗示しているわけだけれども、本作では文字通り、死人(ただしアンデッド)とふか~い関係があるという事になっている。

その他に、クラーケンだのデイヴィ・ジョーンズといった、英米の海の伝説では超有名な化け物が登場するので、うん、ここらへん、まさしくエンタテイメントだよなあ、と思う。
映画の方でみると、クラーケンはあきらかに大蛸だけど、頭足類らしいというだけでクラーケンの正体はあまりわかっていない。
デイヴィ・ジョーンズは、海底にいる悪魔の事だけれど、映画での造形は烏賊男!
烏賊も蛸も日本では人気のある食べ物なんだが、英米では基本的に海の嫌われ者という立場を、踏襲している感じ。(知ってのとおり、クトゥルー神話でも頭足類は悪の人気者だ)。

しかし、海のエンタテイメントという他に、もうひとつ、本作は、ゾンビの物語という一面も持っている。
もともと、ゾンビが有名になったのは、ロメロの映画によるとされているわけで、やはりゾンビは映画と相性がいいのだろうか。なんつってもあの醜悪さにはグロテスクな魅力があるのだろう。
とはいえ多くのゾンビ好きを作ったことはいなめず、ホラー小説にもたくさんのゾンビものがあるし、ゾンビもののアンソロジーだって幾つも出ているほどだ。
その中でもやはり、海のゾンビものというのは異彩を放っているように思う。

本書はある意味、映画のかなり忠実なノヴェライズなので、小説のみで読んだ時には随所に不満が残るのだが、映画を補完する立ち位置としては充分だろうと思う。
まあ、また、それだけディズニーの実写映画がすばらしいというのもあるのだが。
特にアクションなどは学ぶべき部分が実に多い。
あれをうまく文章にできたら凄いのだが、なまじ映画での演出と動きがいいだけに、文章であれに匹敵する演出をするのはなかなか難しそうだ。(本書で不満に思うのも、そういうところが多い)。

しかしそのあたりを踏まえた上で、やはり、海のゾンビものというめずらしいホラーには数えておきたいのだ。


パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト (竹書房文庫)/テッド エリオット