『ヒー・イズ・レジェンド』 リチャード・マシスンに讃歌を | 手当たり次第の本棚

『ヒー・イズ・レジェンド』 リチャード・マシスンに讃歌を


"He Is Legend"……ピンとこないタイトルだ。なら、これはどう?
"I Am Legend"……まだだめか? じゃあ、これだ。
『地球最後の男』……どうだ!

リチャード・マシ寸の名前を知らなくても、「ああ、それ、映画であったよね」と思った人はわりといるんじゃないかな。
実に、3度もこの作品は映画化されているんだそうだ。
海外のホラー小説とかSF小説のファンなら、小説としても思い出したかもね。
え? 最初から、リチャード・マシ寸ってわかってた?
(しっぽゆら~ん)
もちろん、そういう大ファンもいると思ったよ。うんうん。

リチャード・マシスンとは、奇妙な物語をたくさん送り出した人であり、エドガー・アラン・ポーの作品をはじめとして、数々のシナリオをも手がけた。
『地球最期の日』以外に超メジャーな作品に、『ヘルハウス』がある。
お。『ヘルハウス』なら知ってる! という人もいましたね?
怖いよねえ、あれは。

さて、そんなリチャード・マシスン作品を思い切り褒め称えたアンソロジーが本書なのだ。
クリストファー・コンロンという人が、アメリカの名だたる作家たちに依頼して作り上げた。
どんな人が何をやっているか、まずインデックスを見るといいだろう。

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「スロットル」……(「激突!」から着想を得た作品)……スティーヴン・キング&ジョー・ヒル
「リコール」……(「種子まく男」の続篇)……F・ポール・ウィルスン
「伝説の誕生」……(「アイ・アム・レジェンド」序章)……ミック・ギャリス
「OK牧場の真実」……(「ある日どこかで」続篇)……ジョン・シャーリー
「ルイーズ・ケアリーの日記」……(異聞「縮みゆく人間」)……トマス・F・モンテルオーニ
「ヴェンチュリ」……(「陰謀社の群れ」から着想を得た作品)……リチャード・クリスチャン・マシスン
「追われた獲物」……(「狙われた獲物」の続篇)……ジョー・R・ランズデール
「地獄の家(ヘルハウス)にもう一度」……(「地獄の家」序篇)……ナンシー・A・コリンズ
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残念ながら、原書の全作品ではなく、抄訳だという事だ。
しかし、そのかわり、日本でも馴染みのある作家や、メジャーな作品にちなんだものを精選していると言えるだろう。

正直言うと、私も、マシスンのフリークというほどではないので、元ネタの作品には、知らなかったり読んでいなかったりするものも含まれているのだが、元ネタは知らなくても全然OK。
この面子の面目躍如で、全く独立した作品としてすべて楽しむ事ができる。
また、作家それぞれの持ち味も、充分活かされている。

たとえば、「スロットル」。
最初は荒唐無稽とも思えるほどの、不条理かつスラップスティック的なスプラッタシーンが怒濤のように展開され、次第に、それが不条理などではなく、登場人物たちの信条にてらして「当然の結果」につながっていく。
父と子のドラマがそこに絡み合い、短篇なのに(いや、短篇だからか)、詰め込まれたものの濃度は凄く高い。しかも、詰め込みすぎな感じは一切しない。
一部がベトナム帰還兵なんていうロートルが、いまでも暴走族やってるなんて、うぅん、アメリカっぽい。

スプラッタ・パンクの時代に頭角をあらわしたナンシー・A・コリンズは、ハヤカワFTで〈ソーニャ・ブルー〉のシリーズが訳されているが、彼女と『ヘルハウス』の取り合わせも面白い。
魔界の容赦ない力がビシバシと猛威をふるう様子も、ヘルハウスに漂うレトロな雰囲気も、いやもうたまりませんね。

海外ホラーが好きな人ならば(または、単にホラーが好きならば)、きっと、ぞくぞくさせられるはずだ。


ヒー・イズ・レジェンド (小学館文庫)/ジョー・ヒル
2010年4月11日初版

He Is Legend: An Anthology Celebrating Richard .../著者不明