『ブラックペアン1988』 | 手当たり次第の本棚

『ブラックペアン1988』




続編『ブライトメス』はいつ頃単行本化されるのだろう、と思いながら、ふと、再読したくなったのが本作。
海堂尊作品は、作者が意図していたにせよ、いなかったにせよ、日本の医療にかかわる様々な問題が浮き彫りにされていて、良くも悪くも考えさせられてしまうという悪い点があるのだが、そこを無理矢理わきへどけてみれば、やはり、根本的には、エンタテイメントなのだ。

すると、巻末に収録された吉川晃司との談話で、作者本人が言明していた。
面白くないことはしない(意訳)。
なるほど。
面白いから小説を書いているわけで、ならばやはり、これはエンタテイメントで間違いないのだ。

さて、ではどこが一番面白いのかというと、やはりキャラクターの造形かなあ、と思う。
ややステレオタイプなところが出たり、あくの強いキャラがいたりするあたりは、そうだな、ちょっと田中芳樹に似たタイプかなあ。
本作は、大ヒットした『チーム・バチスタの栄光』からさかのぼること20年前の桜宮。
つまり、おなじみのキャラの若かりし頃(!) が見られるのがおいしいのだが、何よりかによりカッコイイのは、佐伯外科教室に君臨する神のごとき外科医、佐伯教授なのだ。

人間というのは、若い頃なら誰もがキラキラしていてあたりまえ。
いかに味のあるじいさんばあさんになれるかというのが、真の人間の価値というものじゃないかと思うのだが、それがフィクションとなれば、魅力的なじいさんばあさんを描ければ、キャラ造形のうまい作家だと思って間違いないと思うのだ。
そして、海堂尊のそうした造形力の真骨頂が、佐伯教授である。
後の高階院長など足下にもおよばない、エラくて、スゴみがあって、ひどのなだめどころもつかんでいて、かつ、いざという時はずばり的確に英雄的な所行ができるという、実にかっこいい「じじい」だ。
こういうじいさんと現実につきあうのは大変だが、面白くもあるぞ~。
幸か不幸か、なかなか、いませんがね。

そんなパワフルな佐伯教授の光と影が存分に描き出されている本作は、バチスタとは違う意味で、スリリングな医療ミステリでもある。
いや、バチスタが、ある意味、ふつ~に医療ミスを題材にしたミステリであった事を考えるなら、医療ミスと思われるケースを、まさに医者にしか思いつかないような、だいたんなどんでん返しで締めるという結末、凄すぎる。
うーん、正直に言うと、ドラマの展開はやはりバチスタの方に勢いがあるかもしれないんだけど、仕掛けの面白さは、倍以上。

『ブラックペアン1988』は、やっぱり面白い。


ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)/海堂 尊
ブラックペアン1988(下) (講談社文庫)/海堂 尊
2009年12月15日初版(文庫版)