TEHNDARA HOUSE Part 3 (1) 〈ダーコーヴァ年代記〉 | 手当たり次第の本棚

TEHNDARA HOUSE Part 3 (1) 〈ダーコーヴァ年代記〉


祭りの後というのは、なんとなくうら寂しいものだ。
または、大騒ぎした痕で、なんとなく気が抜けた風になるのだが、ゼンダラではどうなのだろう。
夜明けまで飲めや歌えの大騒ぎをするようなので、翌日は何も活動できないんじゃないかという気になるが、物語としてはそうもいかないらしい。

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祭の翌朝、突然、コライナがマザー・ローリアをギルドハウスに訪ねてくる。
どうやらコライナは、その日が祭の翌日であるという事を忘れていたようだ。
祭の翌日、それは何をするにも良くない日とダーコーヴァでは思われているようなのだが、さもありなん。
皆、寝不足だったり二日酔いだったりするわけだからね。
ともあれ、マグダはカミラと同衾しているところをたたき起こされ、マザーローリアとコライナの会談につきあわされる事となる。

話題は、ダーコーヴァ人の、というかアマゾンの女性を地球本部の医療部へ招き入れる事で、ローリアは、その1番目を、ベテランの産婆であるマリセラにしようと提案する。
もちろん、マリセラのかわりになる者はいないが、少なくとも産婆としては、ケイサが働く事ができる。
そして、マリセラの次に研修に出るのがケイサ、そして次に……と人選がなされ、マグダも意見を求められる。
また、マグダの修行期間が終わろうとしており、アマゾンたちが地球人の技術を学ぼうとしている今こそ、マグダが実は地球人である事を明かすべき時だ、とローリアは話す。
マグダは、この事に動揺する。
そして、会談が終わり、コライナはローリアから、再三、食事を共にするように招待されるが、まだ時期尚早としてそれを辞退する。

さて、マグダとカミラが改めて下へ降りていくと(ギルドハウスでは、おおむね、上の階がプライベートな居住区域であり、下の階に食堂や台所、マザーの執務室、ストレンジャールームと呼ばれる面接室などがあるようだ)、産婆としてマリセラが呼ばれていっただけでなく、マリセラが不在なので、ケイサまでもが呼ばれていった、と聞く。
ケイサもまだ修行期間が終わっていないので、本来、一人でギルドハウスを出る事はできないのだが、産婆の仕事ではそうも言っていられないというわけ。
しかし、ケイサが出ていった状況がどことなく不審である事がわかる。
あるいは、ケイサをおびきだすための、シャン・マックシャンの企みかもしれない、という事になって、カミラが、ケイサのあとを追う事になる。

こんなふうに、ギルドハウスがどたばたしている中、ネヴァーシンの修道院に派遣されていたデヴラたちが戻ってきた。
しばらくぶりの再会に皆が喜び、また、戻ってきたアマゾンたちは、かつてジュエルの指揮のもと、ネヴァーシンへ向かう途中、マグダの宣誓に立ち会った誓いの姉妹でもあるため、マグダがネスカヤではなく、ゼンダラにいる事に驚いたり喜んだりする。

そこへ、ケイサとカミラも戻ってきて、実際、ケイサが呼ばれたのは産婦のためでもあったけれど、シャンの企みでもあった事が判明する。
カミラが誇らしげに、誓いの娘であるケイサが、どのようにシャンの手の者に応対したかを話し、もはやシャンの危険は去っただろうと評価する。

こんな騒ぎの中、一人が、ようやく、ジュエルの伝言をマグダに伝える事を思い出す。
マグダがマザー・ローリアに呼ばれてコライナとの面談に参加している途中、ジュエルが立ち寄り、大急ぎで旅立ったこと、その様子がただごとでなかった事など。
実は、フィールドワークに出る予定でいたアレッサンドロ・リ(アレキ)が、アンドリュー・カーに会うため、急ぎゼンダラを出発してしまい、悪天候が予測されるなか、彼をゼンダラへ連れ戻すために(またはアーミダへ無事連れていくため)緊急に出立したのだ。

しかし、どうもジュエルの様子はそれだけではなく、もっと深い事情がある事を察する。しかも、なにか緊急な、危ない事が彼女の身の上に起こったか、起こり得るという強い「虫の知らせ」がマグダを駆り立てるし、また、カミラも深くジュエルの身の上を心配する。

マグダがひとりで館から出て行く事ができないのは、ケイサと同様だが、ついに、カミラは、新参者を導くべき古参の者として、マグダがジュエルを追っていく事を許し、マザー・ローリアには自分がそのむね話しておくと請け合う。
ギルドハウスを出発しながら、マグダは、今こそ、自分が地球人であり、ダーコーヴァ人であり、女を愛する者であり、アマゾンであり、あるいはレロニスですらある、そのいずれかひとつではなく、その全てが自分なのだという事を忽然と悟る。
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けだるそうな祭のあとといえども、マグダやジュエルには休みがないという事だ。
まったく、息をもつかせぬ展開で、このあたりで本をおくことは難しい。
マグダが、いわば悟りを開くところは、物語のクライマックスで、場合によっては、ここで巻を閉じる事もできそうなほどだ。
まあ、もちろん、ジュエルの出奔など、解決していない事はいろいろあるんだけれど。

なんといっても、ダーコーヴァの物語でMZBが語りたかったことは、ふたつの異なる世界の衝突であって、そこでふりまわされる人々が登場人物となるわけだ。
マグダもまさしくそういうキャラクターで、幼少の時代をダーコーヴァ人とともに過ごした、ダーコーヴァ生まれダーコーヴァ育ちの、しかし地球人。
ダーコーヴァも地球帝国も、彼女の世界なのだが、どちらにも属しきる事ができない。

また、彼女は、結婚/離婚歴があるし、今はカミラと相思相愛の仲になっているという自覚があるし、アマゾンでありたいと思い、一方、自分にラランがある事も自覚していていて、ちょっと間違えば、そのうちのどれかに引きずられるか、異なるものの間で粉砕されていsまう可能性もある。
つまり、いろいろな面を持ったキャラクターが、マグダなのだ。

そしてもちろん、彼女のそういう特徴は、ダーコーヴァの物語で、幾多の主人公が設定されているものでもある。

だからこそ、ここで、彼女が、自分は何者であるのかという問題について、悟りを開くのが、とても素晴らしく感じられるわけだ。
彼女の「悟り」によるカタルシスは、ひとり彼女の苦しみだけでなく、読者にとっては、ダーコーヴァを彩ってきた多数の主人公たちの上にあるものなのだ。

ところで、ジュエルはなぜ、ただごとならぬ様子ったのだろうか!それについては、また明日。


Thendara house (Darkover)/Marion Zimmer Bradley
First Ptintage,September 1983