『ザ・ジャグル 汝と共に平和のあらんことを I 』 | 手当たり次第の本棚

『ザ・ジャグル 汝と共に平和のあらんことを I 』


榊一郎といえば、いまや代表作はポリフォニカという事になるのだろうか。
そう、〈神曲奏界ポリフォニカ〉だ。
ライトノベルのレーベル、GA文庫の看板作品で、アニメにもなったし、漫画にもなったし、そもそもWEBで電子小説(というかドラマ?)として展開し、今は、携帯などでも読める。

ご本人が(今回も例に漏れず)毎回あとがきで自己紹介するとおり、「軽小説屋」、つまりライトノベルの人。

最近、ハヤカワは国内作品に冠して、ライトノベルの作家を起用する事が多いわけだが、今回登場したのがこの坂喜一郎というわけ。

しかし、ライトノベル作家だからといって、ハヤカワでもライトノベルを書くというわけではない。
本来のハヤカワJAの読者は、きっと満足するものだと思う。
逆に、今までライトノベルで坂喜一郎を読んできたライトノベル読みにとっては、新鮮なイメージになるかもしれない。

時は未来。
人類は軌道上のコロニーにいくつもの国家を作るくらい、地球外での発展を遂げている。
しかし地球上では戦争がやっと終わったばかりで、政治力は弱まっているようだ。
そんななか、「終戦」を象徴するかのように、軌道エレベーターの運用が再開され、その地上側……というか、海上側に、永久平和都市の看板をかかげたオフィールが生まれた。
このオフィールに、起動国家から一組のジャーナリストが降りてくるところから話が始まる。
リポーター(報道士)とカメラマン(記録士)のペアは、オフィールで暮らしながら、その様子をドキュメンタリーにするつもりなのだが。

実は、このオフィール、統治に関するいろいろな部門を売りに出すという面白い事をしてるんだけど、たまたま、海底にレアメタルの鉱山が発見されたことで、その採掘権をめぐり、ちときなくさい事になってきているのだな。
そして、終戦からさほど時間のたっていない今、地上には、多くの兵器と、復員兵が溢れている。
「終戦」とは、平和と同義なのか?
オフィールは、ほんとうに平和な都市なのか。
だとしたら、その平和はどのようにして作り出されているのか?

今まで、国内外を問わず、ミリタリーSFはたくさんあったけれども、終戦直後という、微妙な状態を舞台とし、それをネタにしたものは、皆無と言わないまでも、ほとんどなかったと思う。
そして、その状況を単なる背景にせず、中心に持ってこようとした作品は、たぶん、なかっただろう。
作者はなかなか面白いシチュエーションを選択したなあ、と感心した。

ザ・ジャグルというのは、そのオフィールで暗躍する、ある団体の呼び名だ。
作中では、手品師という言葉にそうルビがふられているが、より厳密には、投げ物芸(お手玉)をする芸人をさす。
彼らが何をどう手玉にとっていくのか、続きに注目したい。


ザ・ジャグル―汝と共に平和のあらんことを〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)/榊 一郎
2010年1月25日初版