『にたり地蔵』〈公事宿事件書留帳7〉 | 手当たり次第の本棚

『にたり地蔵』〈公事宿事件書留帳7〉



このシリーズ、時々、ぎょっとするようなホラーっぽいタイトルがつけられている事がある。
本巻などもそれで、『にたり地蔵』とは妙に不気味。
これ、まさしく、街の辻に祀られているお地蔵さんが、「にたり」と笑って歩み去っていった……という話にちなむのだ。

人の形をしたものというのは、それだけでなんとなく不気味だったりするが、本来慈愛深いとされているお地蔵さんと、「にたり」があまりにミスマッチで、もうこの組み合わせだけで、ホラーの短編が書けそうな気がする(笑)。

お地蔵さんが動くのでも、「かさじぞう」なら怖くないんだけどねえ……!

とはいえ、本シリーズは超自然的な現象を扱ったりはしないので、もちろん、お地蔵さんがにたりと笑うのにも、仕掛けがある。
今回は、仕掛けというより、心理的な落とし穴というべきなのだろうか。

事件の発端となる老女の半生と、お地蔵さんにからむ町の人間模様がなかなか面白い。
また、京という土地と、お地蔵さんの関係を含め、まさしくこれは、京を舞台としなければ書けない話だ。

特定の土地を舞台とする物語であれば、その土地の地勢や歴史を調べるのは当然だろうが、土地の「人情」とか「雰囲気」は、長い時間接していないとわからないし、伝えられないと思う。
本作は、澤田ひさ子が、まさしく「京の作家」と感じさせられる一編だ。


にたり地蔵―公事宿事件書留帳〈7〉 (幻冬舎文庫)/澤田 ふじ子
2003年12月5日初版