『ゲルマン神話 (下) 英雄伝説』 | 手当たり次第の本棚

『ゲルマン神話 (下) 英雄伝説』


下巻は英雄伝説、となっており、『ニーベルンゲンの伝説』、『鍛冶屋ヴィーランドの伝説』、『ベルンのディートリッヒの伝説』が収録されている。
スタイルはもちろん、上巻同様、幾つかの版をもとに著者がまとめあげたもの、となっている。
神話の方がおおむね北欧神話であるのに比べ、伝説の方はまさしくドイツ……というか、ゲルマンのもの。
もっとも、ヴィーランドの話はヴァリエーションがもうちょっと広い地域に伝わっているようではあるんだけれど。

しかし、ジークフリートとクリームヒルトとブリュンヒルデを中心とするニーベルンゲンの物語と、
鍛冶屋のヴィーランドと、
ベルンのディートリッヒの伝説が、実は相互につながっていたとは思わなかった。

この3つの関係は、たとえて言うなら、アーサー王と円卓の騎士にまつわる物語と、トリスタンとイズーの物語と、パーシヴァルの伝説の関係のようなものだ。
主人公が別だが、世界観が同一であり、登場人物が一部、だぶるのだ。

本書におさめられた3つの伝説でいうと、まず、ニーベルンゲンではジークフリートが暗殺されたあと、クリームヒルトがフン族の王に嫁ぐ。
ここで、クリームヒルトの側と、ハーゲンの側が激しい流血の争いをする事になるが、その場にはベルンのディートリッヒがフン族の客として滞在しており、半ば以上ハーゲンの(つまり、ブルグンド王国の)側に立つ。
鍛冶屋ヴィーランドは、神業を持つ鍛冶屋で、その技のために囚われたり、そこから翼を作って逃げ出したりと、ギリシアのダイダロスに比肩しうる人物だが、その息子は、ベルンのディートリッヒに仕える事になるし、彼の鍛えた名剣も、息子によってベルンに運ばれる。

なるほど、この3つを並べてあるのは、とっても興味深い事だ。

惜しむらくは、日本語の文章がとっても読みづらいということ。
訳者もさることながら、青土社の編集部、何してた?
文章の癖はまだしも、最低限、上下巻を通して、固有名詞や用語の表記は統一されるべきと思う。
それと、文章の癖以前の問題として、主語の混乱もなんとかならないものですかねえ……。
はっきり言うが、本書は訳文でもの凄く損をしているぞ。
そこさえ忍耐して読むなら、ほんとに興味深くて面白いんだけどね。


ゲルマン神話〈下〉英雄伝説/ライナー テッツナー
1998年12月20日初版