(ネタバレ版)『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 | 手当たり次第の本棚

(ネタバレ版)『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』


本巻から、まさしくシリーズの佳境に入る。
ハリーたちは3年生となり、学校の外、ホグズミード村に出かける事ができるようになるし、
一方、ハリーの父ジェームズの過去とつながる人物が何人か現れ、
さらに、ヴォルデモートも具体的に復活のめどがたつ。

さて、本巻の勘所は、ハリーと父の関係にあるだろう。
もちろん、実の父ジェームズは、ハリーが1歳の時に死んでいるわけだけれども、ハリーがこれまで得る事のできなかった父性が、登場するからだ。
ひとりはなんといっても、ハリーの名付け親となったシリウスだ。
ジェームズの親友であり、ハリー1歳の誕生日におもちゃの箒を贈ったその人であり、ハリーに迫るヴォルデモートの危険がなければ(そして彼自身が落ちた罠がなければ)、ハリーの育ての親になったかもしれない人物だ。
なんと、若い頃の写真を見れば、見た目すらジェームズとシリウスは似ているとまで言われている。
同じ年であり、同じグリフィンドール生であり、性格もある程度似ていたのかもしれない。
まさしく、神話や伝説に登場する親友どうしのような二人組だったに違いない。

しかし、学生時代の彼らは4人組で行動していた。
残りの2人は、英雄的な2人に比べて、どちらかといえば、みそっかすタイプ。
だが、そのうちのルーピンは、シリウスが(そしてもしかするとジェームズも)与えようのなかったであろう別種の父性愛をハリーにそそぐ事になる。
そして、吸魂鬼という怪物から身を守るために、具体的に活躍するのはこのルーピンになるわけだな。
人狼である彼、「病気」の時期と月齢をあわせる事で、ハーマイオニーがその事実に気づくとされているが、どうしてどうして、実際には、名前からしてあからさまだ。
なぜって、ルーピンという名前そのものが「狼」をあらわすラテン語からきてるじゃないですか。
カタカナで書かれるとわかりにくいけどな。

そして、言葉があからさまというと、ルーピンが教える護身の魔法、「エクスペクト・パトローナム」、ここにも実は「父」という言葉が隠れている。
すなわち、patronum は、保護者を意味するラテン語由来の呪文と考えられるのだけれど、patr- に元来「父」の意味があるわけだ。
だからなのかどうか、ハリーが呼び出す事に成功した守護霊は、まさしく、父ジェームズが動物変身した時の姿、牡鹿だった。

ところで、本巻に隠された父性は、まだまだそれだけではないと思う。
たとえば、4人組のうち、唯一ヴァルデモートに寝返り、シリウスを陥れたペティグリュー(ワームテール)。
ジェームズやシリウスが完璧な人間ではなかったように、4人食いも、彼の存在をもって、完璧な父親像ではなくなる。
しかも、その「欠点」が、ハリーに負い目を作る事で、後にハリーの生存に大きな役割を果たす事になるのだから、ここにも裏返しの父性が見られると言えるかもしれない。

また、4人組とはやはり年齢が同じで、かつ学生当時は対立していたスネイブはどうだろう?
ダンブルドアに対してネガ的な役割を果たす彼も、実際には、二重スパイのような役割を果たしながら、ハリーを守った一人だった事が判明している。
物語を通して、徹底して汚れ役を担うスネイブも、あるいは、ハリーの「父」の一人であったのかもしれない。


ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 携帯版/J.K.ローリング
2004年11月25日初版(携帯版)