『昭和の都市伝説』 | 手当たり次第の本棚

『昭和の都市伝説』


都市伝説とは、つまるところ、口碑であって、公がなんら関与しない「草の根」を、口伝えに伝えられていく物語だ。
民話と同様、ひとつのアーキタイプがあり、それが時代や周辺の国に応じてバリエーションを持っていく場合もあれば、何か大きな事件なり、社会現象なり、インパクトの強いものがあったために、そこから派生するものもあるみたいだ。

だからこそ、都市伝説を通して、特定の時代を見る事もできる。
これは、そんな本と言える。

と、言っても、昭和ってとっても長いんだけどね。
なにせ、64年まである。
つまり、半世紀を軽く超えている。

その中で最も大きな事件は、やはり太平洋戦争であろうし、当然、戦争中はそこに特異な都市伝説がいろいろあったに違いない。
しかし、たいていの人がイメージする「昭和時代」とは、おそらく、「戦後」の事であり、本書に登場する「昭和」も、おおむね戦後の事だと思っていい。

昭和レトロ、なんて言葉も今はあるようだけれど、確かに……。
おばけ煙突はとっくに昔に取り壊され、
路上でキャッチボールをしている姿こそまだ見られても、鬼ごっこやゴム跳びに興じる子供の集団を最近見ない。
フラフープはいっときリバイバルされたらしいが、やはりあれが大ブームとなったのは、昭和レトロなんだろう。
りぃぃぃん、りぃぃぃぃんと鳴る黒電話など、どこへ行けばお目にかかれるのか?(今は普通に携帯ですから!)
昭和は。
もう、遠くなってきた。

しかし、ちょっとセピア色の写真を並べてみるような、都市伝説を通してみる昭和の世界、
確かにそれはどこか懐かしくて、ガラスを通してみるかのような遠い怖さがあるのだけれども、
よくよく考えてみるならば、平成もすでに20年超えちゃった。
ここに語られている幾つもの都市伝説、もしかしたら、平成風味に変わって、どこかを徘徊してるんじゃないかな。

たぶん。
たぶん。
どこかに……。

え?
なんとなく背中が寒い?
なら、もう一度この本を開いて、過去の世界に遊ぶといいよ。
半ば架空となったそこならば、「今」の怖さは追いかけて来ない。

但し、迷子になって、サーカスに売られても、知らないけどね。


昭和の都市伝説/並木 伸一郎
2007年11月6日初版