『フクロウが多すぎる』〈シャンディ教授シリーズ8〉 | 手当たり次第の本棚

『フクロウが多すぎる』〈シャンディ教授シリーズ8〉

『風見大追跡』の事件でピーターとクロンクが巡り会った、ミステリアスな、ビンクス家の女相続人ウィニフレッド。
いやまあ、ミステリアスといっても、少女では、いや、娘ですらない、言うなれば(女性陣にはご寛恕を願うとして)オールドミス……というやつなんだけど、それでも、彼女は仕立てのいいスーツで決めると、驚くほど気品に溢れる、美しく教養溢れる婦人なのだ。
そんな彼女は、めでたくバラクラヴァ大の一員となり、今は莫大な財産をつぎ込んで、環境と健康に良いことを中心とした生活というものについて人々を啓蒙するべく、なんとローカルテレビ局を開設しようとしているところ。

ところが、ところが。
なんと、今回はこのウィニフレッドが事件の焦点に!
何しろ異常な状況で凍結されていた資産が、劇的に継承されたわけで、新聞沙汰にならないわけがなく、ウィニフレッドが悪いやつらに狙われやすい状況にあったのは間違いない。
従って、このシリーズとも思えない、いささか企業ものっぽい要素すら出てくるのだけれど、そこはそれ、事件の解決にあたるのが、農夫の中の農夫たる、バラクラヴァ大の面々だから、嵐に耐える草木のように柔軟かつ力強く、持続的かつ忍耐強く、こんぐらかった謎を解きほぐしていくというわけ。

催眠術が出てくるあたりは、めずらしくけれん味に溢れていたりするのだが、氾濫した川をスヴェンソン学長の操縦するボートで下っていったりなど、かなりのスリルが盛り込まれていて、本編も、私としては、シリーズ中ベスト3に数えたい。(ちなみに、残りの2つは、『にぎやかな眠り』と『風見大追跡』だ)。

ところで、ウィニフレッドがお熱になったゴールデン・アップルズ直営レストランで出される珈琲は、チコリ・珈琲だそうな。これも、タンポポ・珈琲も、上手に煎れてあれば、なかなかうまいと思う。
(ティーバッグ形式のやつは、基本、だめ。まあ、これは珈琲豆を挽いた珈琲も同じだし)。
だから、ピーターが絶賛(?)する、チコリとタンポポ両方を配合したウィニフレッドの珈琲は、ぜひとも試してみたい。
しかし、アマランスのパンケーキとか、サッサフラスのゼリーとか……うぅん、どういう味なんだろう。ここらへんは、食べてみたいような、みたくないような(笑)。


『フクロウが多すぎる』〈シャンディ教授シリーズ8〉(シャーロット・マクラウド作 高田恵子訳 創元推理文庫246-12)
1992年6月19日初版