『中国の神話伝説 (下) 』 | 手当たり次第の本棚

『中国の神話伝説 (下) 』

上下巻にわかれた本書だが、下巻はどちらかというと、伝説の部分が多くなっている。
その中心となる人物は、孔子。

中国は儒教文化の国だと言われ、
それは共産主義の中でどうなのかとか、
いや、実際には民衆のほとんどは道教文化だろと言われたりとか、
まあ、異論とか誤解がたくさんありそうな気がするが、
「腐っても鯛」というか、「結局のところは孔子」というか、
本書も、ほんとに孔子中心に伝説の樹形図が展開されている。

勿論、何もかもすべてが孔子に結びつけられているわけではないが、いろいろな思想家や政治家を登場させながらも、孔子の思想の影響下にある事がそれとなく常に触れられている。

とはいえ、もちろん、それだけではない。
ちょっと前後するが、当然、この巻では、有名な酒池肉林が登場する、あのあたり……。
よく考えなくてもなんだか似ている、二人の暴虐な王様(そしてふたりとも易姓革命にあった)、あそこらへんの話も登場するのだ。

ここで著者は、傾城の美姫について、「国が滅びた原因をひとりの女性のみに求めてはいけない」という論を何度か弁じているが、ある意味ここも共産主義的または社会主義的な立場に立脚しているのかもしれなくても、伝統的に、「あれはあの妖女たちのせい!」とみなしてきた読者には、ちと新鮮かも。

まあ、原題中国で出された著書であるから、いろいろな制約とかあるのだとは思うが、そういう事を鑑みても、古典を読むという視点から疑いなく受け容れていた典籍について、全く違う視点を導入してくれている事は、間違いがない。

いずれにせよ、書かれている事の論拠となる原典は、それが登場する箇所にナンバリングして巻末に出典が列挙されているから、確認したければ、いつでも読者は確認する事ができる(そのつもりがあるならば)。


中国の神話伝説〈下〉/袁 珂
1993年4月15日初版