『螺鈿迷宮』(文庫上下巻) | 手当たり次第の本棚

『螺鈿迷宮』(文庫上下巻)



最新作『イノセント・ゲリラ』で、司法と医療、解剖とエーアイが四つ巴の戦いを繰り広げているそのかたわら、こちら、『螺鈿迷宮』も角川から文庫化された。
海堂尊の作品は、ゆるやかに、ひとつのワールドを共有していて、単独でも面白く読めるが、複数の作品を読むほど、世界が広がるというイヤな特徴をもっており、たとえば本作も、『チーム・バチスタ~』に始まるシリーズをある意味補完する形で、密接な関係を持っている。
まるで、作品の中の東城大学病院と桜宮病院の関係のように……。

ストーリー上では、『チーム・バチスタ~』で、「その場にいない氷姫」の事が時々話題にのぼっていたのを記憶している人も多いだろうが、これはちょうどその氷姫が登場する話で、物語世界の中での時間軸では、バチスタ事件よりちょっとあとの話になる。
(ゆえに、氷姫って何もん、と思った人には、絶対にお奨めしなければならない!)

しかし、テーマ的には、最新刊『イノセント・ゲリラ』をダイレクトに補完すると言ってもいい。
なぜなら、これは、死因と解剖が大きなテーマのひとつとなった作品だからだ。
同時に、解剖ということと、エーアイ、そして終末医療の新たな試みを非常にうまく利用した、上質なミステリでもある。

あえて難を探すなら、医学部の落ちこぼれである主人公天馬大吉は、どことなくその姿が、田口とダブるものを感じなくもないが、だとしたら、天馬大吉は、将来どんな医師になるのだろうか?
『螺鈿迷宮』の事件を経て、もしかすると、田口と似ているどころか、全く違うタイプの医師になるのかもしれず、いずれこの主人公が大学病院に姿を現す事を、期待してしまうのだ。



螺鈿迷宮 上 (角川文庫)/海堂 尊
螺鈿迷宮 下 (角川文庫)/海堂 尊
2008年11月25日初版