『太陽の中の太陽』〈気球世界ヴァーガ1〉 | 手当たり次第の本棚

『太陽の中の太陽』〈気球世界ヴァーガ1〉

正直、最初のシーンから、絵が宮崎駿の絵で浮かんでしまった。

永遠に飛び続ける空中都市だよ?
そのまわりを飛び回る空中バイクに羽ばたきグライダー。
空中都市からなる公国を護る軍艦ならぬ「艦軍」は、木造船。
それらはひっくるめて、巨大な風船のような世界の中にあり、
そこでは永遠に空気が動いていて、小さな小惑星以外、地面というものがなく、
森ですら、巨大なブロッコリーのように、四方八方へと育つのだ。

そう、これが「気球世界」。
あたりいちめん、気球が飛び交う世界という意味ではなく、気球の「中の」世界、という意味なのだ。

しかし、なんといっても「中」だからね。
そこに住む人々が頼りにするのは、人口太陽をおいてない。
(さすがに、中に恒星系があるわけではないのだ)。
これがないと、暗く冷たい「冬空間」となってしまい、住むには非常に過酷な状態となる。
だからこそ、国にとって、自前の太陽を持つのはとても大切なことだ(ていうか、太陽を持たないと国としてなりたたないのだろう)。

しかも、都市は(国も)、全て浮遊している……ということは、世界の中を動きまわっている、ということ。

そんな中、主人公はある帝国に征服された地方の都市国家エアリーのレジスタンスの、生き残りとして登場する。
国を滅ぼし、エアリーの太陽に点火しよう(独立の印!)としていた母を、太陽ごと滅ぼされたヘイデン。
その罪を征服軍を率いていた提督に負わせ、復讐を望むのだが、奇しくもその提督率いる艦隊に乗り込んで、あるとんでもない作戦に巻き込まれながら、だんだんと彼の目は世界の隅々までとらえ、いろいろな事を考えるようになっていく。
ここらへんは、成長物語の定番でもある。

そして、ここが定番であるだけに、背景世界のユニークさが、めちゃめちゃいきてくるわけだね。

本作は、三部作の第1巻なのだそうで、従って、一応物語として完結をみてはいるけれど、本巻ではあまり触れられていない部分が、続く巻で読めそうだという期待も残る。
そりゃね、こんなユニークな世界なんだから、一冊で終わるのはもったいないというものだ。


太陽の中の太陽 (気球世界ヴァーガ) (ハヤカワ文庫SF)/カール・シュレイダー
2008年11月25日初版