『仮宅』〈吉原裏同心9〉 | 手当たり次第の本棚

『仮宅』〈吉原裏同心9〉

大炎上した吉原が、外での仮宅営業に入る……。
万事格式張った吉原という場を離れれば、ざっくばらんな商売をするとあって、仮宅営業は大流行り……というのは他の佐伯作品でも何度か触れられているのだが、
こちらはさすがに、吉原そのものを舞台に展開するシリーズとあって、
そうなった時の、吉原を支える人々がどうなるかを描いているのは面白い。

もちろん、小説のことだから、作者が手に入る限られた資料をもとに、充分な想像をはたらかせているものと思うけれども、大門外の茶屋などは、再建の目処をたてようもなかったり、女郎衆と異なり、男衆などの裏方は、仮宅営業中はリストラされてしまったり。
なるほどそういうこともあろうかと膝を打ちつつ、そんなところもリアルに描いていく作者の筆が、ちょっと気持ちいい。

一方、取り囲む塀のない仮宅では、吉原にいる時ほど、女郎衆の出入りも厳しく制限しようがなく、気持ちがゆるむというところをついて、足抜とも拐かしともとれる謎の失踪事件が相次ぐ、というところから話が始まる。

勿論、その裏には、悪辣な事を企む一派が控えているのだが、今回は仮宅営業という事も手伝ってか、悪事の親玉は単発的。
そして、今後もちょこっと顔を出してきそな、ひょうげた人物が登場する。
これがなかなかユニークな人物なので、今から再登場が楽しみ。


仮宅―吉原裏同心9 (光文社文庫 さ 18-21 光文社時代小説文庫)/佐伯 泰英
2008年3月20日初版