『扉をあける風』〈うるわしの英国シリーズ5〉 | 手当たり次第の本棚

『扉をあける風』〈うるわしの英国シリーズ5〉

波津彬子の〈うるわしの英国シリーズ〉が、本巻をもって、とうとう完結なのだ。
とびとびに描かれていたシリーズらしいので、スタートから完結まで、相当の年月を経ており、今、1巻を開くと、なるほど最新巻とはかなり絵の雰囲気などが違っているところもある。
しかし、あとがきで作者が気にするほど変わっているとも思えず、実在の人間や猫とて、何年かたてば、多少は変わるだろう、という、その範囲内ではないかな。

さて、このシリーズだが、表向きには、
美青年にして子爵でもある、コーネリアス・エヴァディーン卿を主人公とする、ロマンスとなっている。
時代背景は日本でいえば明治から大正あたりの、あの時代。
馬車もあれば、自動車も走ってるぜ、という、現代人の目からみれば美化されがちな時代にあたる。
そこもってきて、主人公が「美青年」であるから、シリーズタイトルも、むべなるかな。

しかし、読んだ人は皆知っている、これ、真の主人公(または裏のフィクサー)は、主人公が預かっている猫、ヴィルヘルムなのだ。
彼は黒白のツートンカラーで、長毛種で、決して品評会で優勝するような美猫ではないが、めちゃくちゃ風格があり、たまに、どう考えてもあり得ない不思議を発生させ、本来の飼い主のお父さんには猛烈な猫アレルギーを発生させ、一方主人公のお父さんには、「あの面白い生物」として気に入られている、そういう猫だ。
たぶん、重そう。

そもそも、波津彬子描くところの猫は、和猫だろうと、外国の猫だろうと、短毛だろうと、長毛だろうと、すんなり美猫というのがほとんどいない。
たいてい、ずっしり重そうで風格があるか、不細工なのに奇妙に魅力的という、そういう猫どもだ。
なかでも、本シリーズのヴィルヘルムは、その最右翼であるといえよう。

シリーズ完結、どのキャラクターもおさまるべきところへおさまり、見事に大団円なのだが、……。
その全てに、びみょ~にヴィルヘルムがかかわっているように思えるのは、きっと、全然、気のせいではない。
まあ、ね、主人公も思っているとおり、「猫とは不思議な生き物」という事なのだろう。

猫好きにはぜひともお勧めしたい漫画なのだ。
完結を機に、ぜひ(笑)。


扉をあける風 (フラワーコミックス)/波津 彬子
2007年10月31日初版