『雄飛!』〈古着屋総兵衛影始末7〉 | 手当たり次第の本棚

『雄飛!』〈古着屋総兵衛影始末7〉

今回は、前々から建造が進められていた「二千石船」、大黒丸にまつわる物語となっている。いよいよ、世紀の大船が、江戸から走り出す事になるわけだ。
もちろん、物語の中で、船大工と幹部乗組員の候補者が、長崎まで行き、西洋の帆船を十分に見て、調べて、学んできたという話にはなっているのだが、それにしても、いろいろな部分が西洋の帆船臭い(笑)。
船首に鳶の像がある(つまりヘッドフィギュアですかい)、なんてのは、ちといきすぎでは(笑)。
まあでも、いきなり三本マストにはせずに、二本にしておくとか、それなりに抑える工夫はしているようなのだが。

しかし、外国との自由な貿易が禁止されている江戸時代、いくら表の顔が商人で、裏の顔が旗本という特殊なキャラクターであっても、でかーい船を造って、実は国外とも貿易しちゃおうなんて考えるあたり、古着屋総兵衛は、決して、「正義のヒーロー」とは言えない。

実際、敵は容赦なく拷問もすれば殺しもするし、かといって格別猟奇な演出もないため、そこらへんがリアルな人物群ともなっているし、したたかな商人/隠れ武士という特徴を際だたせてもいるのだと思う。

ところで、前巻の記事では、シリーズでは例外的なほど、たくさんの女性キャラが活躍すると書いたが、今回は、本庄絵津がいよいよ金沢へ輿入れする事になり、その花嫁行列(総兵衛演出)が、巻末の彩りとなっている。
そういえば、居眠り磐音では、白鶴太夫の行列が、なんども華やかな演出をなされていたが、絵津の輿入れも、それにまさるとも劣らない。
なんともあでやかなシーンとして、女性が主役の行列を描写するのが、佐伯泰英はとても得手のようだ。


雄飛!―古着屋総兵衛影始末 (徳間文庫)/佐伯 泰英
2002年12月15日