『決戦! バルト海』〈海の男/ホーンブロワー8〉 | 手当たり次第の本棚

『決戦! バルト海』〈海の男/ホーンブロワー8〉

思えば、ここまでホーンブロワーは、もっぱら南の海を航海して来たのだった。
海尉になるまでは、イギリス沿岸か地中海。
海尉になって、こんどはカリブ海など、ともかく南、南、南。
どうりで、ホーンブロワーが、海水をくみあげてるポンプの下で、行水できるわけだ。

いや。結局、寒い海でもやってるわけだが>行水

まあともかく、これはホーンブロワー初の北の海。
そして、初の指揮官旗。
再婚ではあるが、やはり新婚の家庭を残して、海へ出てしまうのだ。

ところで、ホーンブロワーとバルト海の組み合わせでピンと来た人は、かなり、西洋史のセンスがある人だろう。

今まで、ホーンブロワーは南の海で戦ってきているけど、その相手というか、背後に控えているのは、常に、ナポレオンだったわけだ。
イギリスは、連戦連勝のナポレオンを相手に、孤軍奮闘する、そのうちのひとりがホーンブロワー。
そういう図式だね。
では、ナポレオンがはじめて敗北した場所は?
これが、大甘な、ヒント(笑)。

ともあれ、ホーンブロワーは、決してメインの戦場ではなくとも(海なので、それはこの場合難しい)、イギリスの勝利に、かなり決定的な働きをしてのけるのだ。

さて、私が本シリーズを初めて読んだのは、高校~大学にかけての話。
その頃は、年上の先輩読書家連に、ホーンブロワーといえば艶福家で、なんて話されても、全然ピンと来なかったのな。
しかし、大人になって、結婚したり、連れ合いを亡くしたりとかしてみてから読むと、なるほど、確かにホーンブロワーは艶福家に思える。
新婚だというのに、ロシアの貴婦人(それも美人)に、きっちり、モーションをかけられている(笑)。
しかも、怪しいシーンがある……!
ホーンブロワー自身は、漁色家ではないのだけど、フランスで子爵夫人マリーが言ったように、もしかすると、ホーンブロワーは、「女に冷たい」のかもしれない。
一般的な意味で女に興味がもてないからこそ、いろんな女性にモーションをかけられるのであり、マリアのように愛情過多な女性が来ると、押し流されて結婚しちゃうのであり(ほんとに興味を持っていたなら逆に結婚しなかったのかも)。
一人の女性に、ぞっこんであるという状態にならないからこそ、だろう。
しかし、これ、実は、ホーンブロワーの最大の恋人が「海だから」というのは、詩的にすぎるだろうか?
つまり、ホーンブロワーにとって、全ての人類女性は、海の二の次、なのだ。


セシル・スコット・フォレスター, 高橋 泰邦
決戦バルト海
ハヤカワ文庫NV
1976年10月31日初版