『水冥き愁いの街-死都ヴェネツィア』〈龍の黙示録6〉 | 手当たり次第の本棚

『水冥き愁いの街-死都ヴェネツィア』〈龍の黙示録6〉

イタリアの都市は、昔の都市国家の名残なのか、それぞれに特徴があるようで、魅力的なものらしい。
なかでも、ヴェネツィアは、やはり特別なのだろうか。
かつては強大な商業国家であり、
今は世界的にも名高い観光地として知られる。

だが。それよりなにより、ヴェネツィアが希有の都であるのは、その「土地」が全て「人の手」によって作られたものである、という事だろう。
海という強大な「水」を相手に、「人」が文字通り、一歩一歩、立つ場所を勝ち得た処。
ヴェネツィア。
その壮大な成果が、
そして前世紀末から、ついに「海」が再び、ヴェネツィアをその懐に抱き取ろうとする最終的な勝利が見えてきたという事が、
なおさらに、人を魅了するのかもしれない。

そんな都を舞台にする本巻は、シリーズ中最も華麗とも思えるし、勢力も、単にヴァティカン対主人公という二元的なものではなく、ヴェネツィアに二百年住み暮らした吸血鬼の少年も登場すれば、ヴァティカン側とて怪しげな白衣の修道女集団や、サタニストと噂される元司教、吸血鬼研究家でもある野心家の心理学者など、いろいろなグループが顔を出す。
また、主人公の側とて、ヒーロー・ヒロインがセバスティアーノ修道士をはさんで、にぶちん三角関係を形作るという、ちょっと笑える状況になっている。

誰が誰と手を組み、どのように共闘し、あるいは裏切るのか。
水の都ヴェネツィアを舞台とする、バトルロイヤル!
うん、これなら面白い。
新登場のキャラも、それなりに最初から立っているようで、今後が期待される。

難を言えば、今回登場する(そして腰帯でもあおられている)、「聖槍ロンギヌス」の実態が、さきに登場した聖杯に比べ、まったく曖昧なままに終わっている事だ。
次回の舞台はトリノだそうだが(すると、聖骸布が出てくるのか?)、ロンギヌスもこのまま後を引くのだろうか。
本巻初登場のキャラもそのまま持ち越すみたいだしね。


篠田 真由美
水冥き愁いの街―死都ヴェネツィア 龍の黙示録
NON NOVEL
2006年5月18日新刊