『天象儀の星』 様々な光の物語 | 手当たり次第の本棚

『天象儀の星』 様々な光の物語

天象儀の星 天象儀とは何?
もっとなじみ深い言葉で言うならば、それはプラネタリウムだ。
天文好きなら、絶対に魅了されてしまうプラネタリウム。
今は、ちょうど、個人用の手軽なプラネタリウムが人気商品になっているけれど、星空のどんな部分も、思いのままに映し出せるあの機械を、自分のものにしたいと思う人は、やはり多いという事なのかな。
なぜなら、それは、星空の一部を自分のものにすることだからね。

そういえば、プラネタリウムというのは、製作者の思うがままに、どんな空でも投影できるのだけれど……。
もし、それが、実際の夜空に、あり得ない星空を映し出せたとしたら?

星は光。
光は時。
ならば、プラネタリウムが時空を超えることも、あるいは、可能なのかもしれない。

さて、そんなプラネタリウムの物語を冒頭におく、これは短編集だ。
ソノラマ文庫に入っているというと、ライトノベルか、というイメージが強いと思うけれど、とんでもない。
どちらかというと、SFマガジン好みのものに近いと思う。
プログレッシヴなところはないが、SFファンがじっくりと味わえる、さまざまな、「光」の物語が連ねられている。

たとえば、デジタルの光と、虹の七色。
あるいは、画家の目がとらえる繊細な光。

いや、それだけではない。
福音書にあるとおり、「光あれ」の一言で宇宙が始まったとするなら(いや、実際にそれに近い説もあるのだけれど)、世界を創始したその「光」のかけらが、まだどこかに存在するのではないか?
短編集のラストを飾るのは、まさしくそのテーマを、モーツァルトの有名なオペラ『魔笛』にからめた作品だ。
(ただし、この作品に関してのみは、あの秘教的な……というか、フリーメイソン的な雰囲気が充分にいかされているために、かえって大抵の読者には、やや読みづらいかもしれないが)。

スライドショーのようにうつりかわる、さまざまな「光」の物語。
スリリングなものもあれば、
ハートウォーミングなものもあるし、
メルヒェンを思わせるものもある。

目次------------------------
天象儀(てんしょうぎ)の星
まじりけのない光
ミューズの額縁
王女さまの砂糖菓子(アルフェロア)
光響祭
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秋山 完
天象儀の星