『ガンパレード・マーチ もうひとつの撤退戦』 | 手当たり次第の本棚

『ガンパレード・マーチ もうひとつの撤退戦』

九州全土は、幻獣の手に落ちる。
ということは、自動的に撤退戦が行われるということで、5121小隊の撤退戦については『九州撤退戦(上下巻)』で語られているようなのだが、いわばこちらは、戦争の表側。
表があれば裏があり、それがこちらだ。

つまり、もともと末期的な状態の軍が、撤退戦をやるとなれば、弱者は切り捨てられるという暗黒面が見えてしまう。
たとえば、いまだ正式な学兵になっていない訓練兵はどうなるのか?
そういうサイドストーリーが展開されているのが本巻。
もっとも、そのストーリーのみで1冊になっているわけではなく、短編集という体裁だ。(しかし、いずれも5121小隊の通常の活躍ではなく、小隊の外で繰り広げられるサイドストーリーという形だ)。

もちろん、タイトルにある「もうひとつの撤退戦」が、一番面白い。
これは、かつての第62戦車学校の生徒たちを教えた、坂上、本田、芳野の3教師と、彼らが「その時」教えていた、だめだめ訓練兵たちの話だ。
「もうじき戦争は終わる(休止する)かも?」
という雰囲気濃厚な中、厭戦ムードが蔓延し、当然、生徒たちのやる気も、めちゃくちゃ低空飛行。
しかし、その「雰囲気」はまやかしで、実は戦況は撤退直前であった、というわけだ。

太平洋戦争当時、日本軍が敗退に敗退を続けているなか、国民向けに放送されるラジオでは、戦果かくかくたるものであるかのようにニュースが流されたというのは有名だけれど、実際、戦況が悪くなればなるほど、末端には情報が正しく伝わらず、その一方で、
「なんかやばくね?」
というような状況が、ひたひたと迫っている事が、肌で感じられるというのは、どこでもある事なのだろう。

気の毒なのは、現地で訓練されている兵というのは当然考えられる事で、それまでの「自衛軍」のやりかたを見れば、かれらが捨て駒というか、撤退戦の「盾」としておいて行かれるのは、もちろん、目に見えている。
いや、そもそも、学兵という存在そのものが、
「自衛軍たてなおしまでの捨て駒」
であることは、ここまでの話で読者には明らかになっているわけだが、こうなると、捨て駒の中の捨て駒とでも言おうか。
ろくな兵器もなく、ほとんど訓練も行われていない十代後半の少年少女が、放棄される陣地を死守するという命令のもとに、残されるのだ!

これを知って、かれら教師はどうするのか。

状況は、なかなかスリリングだ(笑)。
最後の方で、5121小隊の姿を見ることもでき、佳作となっているかと思う。

他に、士魂乗りの中では「もっとも目立つ」荒波千翼長もはしばしに顔を出すし、
なんと、5121小隊ではいちばん普通で地味な存在となってしまっている滝川が、
「そうかー、滝川も外に出すとこれだけ優秀な働きをするんじゃん」
と読者が瞠目するようなシーンもある(笑)。


榊 涼介
ガンパレード・マーチ もうひとつの撤退戦
電撃ゲーム文庫