『銀河市民』 舞台は銀河、少年は壮大なる企みに立ち向かえるか? | 手当たり次第の本棚
- ハインラインという人は、非常に多彩なSFを書いてきた人で、中には、
『異星の客』のように、カルト的にまつりあげられた作品があるかと思えば、
『宇宙の戦士』のように、ちと右翼的なんじゃないかとクサされたものもあり、
そりゃあもういろいろ。
だが、必ず、ハインラインがその作品を通じて描きだしてきたことは、
「人間はその魂から、自由を欲しているのだ」
という事じゃなかろうか。
また、その自由は、生得の権利であるけれども、努力して勝ち取らなければならないとも語っているように思われる。
事実、ハインラインの物語では、主人公が、様々な方法で束縛を受けるのだけれども、そこから自分なりにほんとうの自由を得るべく、闘っていくわけだ。
さて。
昨今、ハヤカワがやたらと昔の作品をリニューアルして、出しているのだけれど(笑)。
ハインラインも1冊、リニューアルして新刊になりました。
それが、5月末に登場した『銀河市民』なのだ。
ハインラインは、ハヤカワ文庫に収録されているだけでも、
『宇宙の戦士』、
『月は無慈悲な夜の女王』
『人形つかい』
『夏への扉』
など、名作とうたわれるものがいくつもある。
なのに『銀河市民』。ふぅぅぅぅん?
並み居る、ハインラインの代表作をおしのけて『銀河市民』がリニューアルされた理由は、おそらく、
ハインラインがいろいろな作品を通して語ってきた、自由というものへの考え方が、もっともストレートに、かつわかりやすく、表現されているからなのかもな。
ある意味、この物語は、ハインライン入門書として、最適とも言えるのだ。
さて、どんな物語かというと。
はるかな未来、銀河系のあちこちに、人間は広く植民し、すでに主権を確立したばかりか、独自の星間帝国を作っているグループすら、存在する。
また、人類と意志を通じさせ、交易をしている異星人もいろいろ。
しかしながら、広範なフロンティアでは、ある面で人間のモラルや文化が後退する事もある。
たとえば、九惑星連合では、地球人がとうのむかしに「過去の遺物」としたはずの、奴隷制度が認められているわけだ。
そんな、九惑星連合の首都、サーゴンの奴隷市場に、ある日少年が出品される。
年齢のほどはさだかではないが、たぶん、十歳か、十いくつか。
見栄えがよくなく、反抗的な様子をしていて、誰もほしがらない。
そこで、とうとう、老いた乞食が、その少年をわずかなカネで買い取る事になったわけだ。
そう、この少年が、本編の主人公。
遠い未来であり、銀河を人類が縦横に駆けめぐる時代に、奴隷制? 乞食?
そう思うかもしれないけど、なにも、未来=進歩というわけではないのだ、と40年も前に、ハインラインは語っていたわけだ。
しかーし。
この老人、どうも普通の乞食ではない。
彼のもとで育ち、教育を受けたソービーは、謎めいたスリリングな状況でサーゴンを出る事になり、
独自の氏族制社会を形成する宇宙商人の一員となり、
さらには軍を経由して、地球に戻ることとなり、
自分の出生の秘密だけでなく、なぜ自分が奴隷にされたのかという事件をきっかけに、とんでもない企みに気づく事になるのだ。
残念ながら、その企みを、快刀乱麻の働きで阻止し、敵をこてんぱんにする、というようなラストではない。
けれど、この物語の醍醐味はそこにあるのではなくて、
生まれた土地も、家族も、年齢すら不明であるという、
「人間としての存在証明」
これを奪われた状態の少年が、いかにして自分の生きる道を探し、一歩一歩を勝ち取っていくか、というところにある。
もちろん、我々は、主人公ほどひどい状態に置かれたりはしていないはずだし、
逆に、主人公ほど天才的でもないのだけれど。
「何かを求めて一歩ずつ勝ち進み、時には挫折し、時には友情や愛情を得る」
という過程に、共感できるし、自らのことのように楽しめるんじゃないかな。
そして、共感性が高いからこそ、ハインラインが語りたい事が、すんなり入ってくるという事にも、なるわけだ。
ハインライン入門書、と私が呼ぶのは、これが理由だ。
大人になってから読むには、ちょっとこそばゆいような気もするのだけれど、
時には少年の頃にかえって、もういちど、主人公ソービーと、冒険してみるのも、案外楽しいかもしれないぜ。
ロバート・A・ハインライン, 野田 昌宏
- 銀河市民
ハヤカワ文庫SF
2005年5月31日リニューアル新刊
(旧版 1972年ハヤカワ文庫SF)

