『イディッシュの民話』 東欧のユダヤ人はこんな風に暮らしていた | 手当たり次第の本棚

『イディッシュの民話』 東欧のユダヤ人はこんな風に暮らしていた

イディッシュとは、なにか?
簡単にいうと、東欧に住んでいたユダヤ人をさす言葉。
かれらに共通するイディッシュ語というのもあるのだけど、これ、ヘブライ語ともちょっと違う。ヘブライ語とドイツ語の中間みたいに聞こえる言葉だ。(事実、イディッシュをしゃべるユダヤ人は、ドイツ語が得意っていう話がこの本にもある)。

日本人には、とっても馴染みの薄い言葉なので、
「なんかよくわからん」
という場合は、もっと簡単に、
「ユダヤ」
そう考えておけば、いちおう、間違いではないよ。

さて、これは20世紀に採取された民話集で、そのせいか、かたやロシアのツァーが出てくるかと思えば、ナポレオンや、ロスチャイルド男爵も登場する。
内容は、なんとな~く想像されるかと思うんだけど、やっぱ、宗教的なものが、他の民族に比べて多いような気がする。

それも道理。
ユダヤ人は、まず、民族宗教(ユダヤ教)を持っていて、その信仰をよりどころに、独自の文化を築いているわけだ。
ということは、彼らの生活はユダヤ教徒切ってもきれないわけで、それならば民話にもその影響が出ようというもの。

でも、理由はそれだけではない。
じつは、ユダヤ人は、ことのほか、「おはなし」が好きらしいのだ!

聖書に親しんでいる人なら、その中に、しばしば「たとえ話」が出てくる事を思い出すはず。
イエス・キリストも、、人々にわかりやすく神様のことなどを説明するため、たとえ話を用いたんだな。
とくに、イエスの場合は、教育を受けていない人々、たとえば女性にむかって、たくさん、教えを説いたわけで、そのためにもたとえ話が必要だったのだと思われる。

この本でも、まさしくそれと類似のシチュエーションで、たとえ話がひんぱんに使われているし、話者の思い出話、お話を聞いた時の状況説明として、
「シナゴーグ(ユダヤ教の教会)や、ユダヤ教の学校で、お話を聞いた」
というのが、やまほど出てくるのだ。

とはいえ、べつだん、宗教がかった話ばかりじゃないぞ。
むしろ、そういうのは少数派。
笑い話もあるし、魔法昔話もあるし、なんと妖精譚だってある!
ユダヤ教と妖精って、なんだか相容れないような気がするけれど、ちゃんと、ユダヤ人も、自分たちの妖精や小人や悪霊などを持っているわけだ。
なかには、イギリスやフランスなどでおなじみのものが違う形で出てくるのもあるし、
全然そういうのとは関係ない、独自のものと思われるのもある。

故国を持たず、ヨーロッパ、とくに東欧を流転していたユダヤ人……イディッシュたちの、生活がうかがわれる民話集。なんとなく、胸にじんわりとくる話が、たくさん入っているんだ。


著者: ビアトリス・S. ヴァインライヒ, Beatrice Silverman Weinreich, 秦 剛平
タイトル: イディッシュの民話