『クムカン山のトラたいじ』 朝鮮民話による絵本 | 手当たり次第の本棚
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トラといえば、古くはペルシア(イラン)あたりからインド、東南アジア、中国、朝鮮半島、シベリアあたりにまで分布していたらしいが、最近は。
絶滅の危機に瀕しているのです!(大泣)。
……じゃ、なくてだ(汗)。
それほど広範囲に生息していたにもかかわらず、トラの出てくる民話というと、圧倒的に朝鮮半島が連想されるのは、なぜだろう。
次がインドかな。
でも、ほんと、圧倒的に朝鮮半島、民族でいえば、朝鮮族なのだ。
この民話を絵本にした松谷みよ子もそう思っていたそうな。
だからこそ、別段、朝鮮民話といえばトラばかりじゃなく、トッケビという一種の妖精にまつわるものだってたくさんあるのに、これを絵本にとりあげたんだろうな。
さて、朝鮮半島におけるトラというのは、他の国の民話に出てくるトラとは、ちょっと違う。
まず、トラは、人を食うものだ、という大前提がある。
したがって、トラはよく登場するが、決して善玉ではない(たまにトラが善玉な民話もあるけどね)。
なんつっても、朝鮮半島の民話にあるトラは。
人を食ってしまうだけではない。
喰われた人の霊魂は、一定の条件が満たされるまで(そのトラが神通力を得て神様だか仙人だか人間だか、そゆものになれるまで)、手下として仕えなければならないし、何を仕事にするかというと、他の人間がトラに喰われるよう、トラを手伝わなくちゃいけない。
どうです、なかなか、怖いでしょう( ‥)/
そうやって、喰った人間の霊魂をこきつかう事ができるくらいだから、トラにはいろいろと怪しい力がそなわっていて、たとえばいろいろなものに、化ける事ができるらしい。
クムカン山(金剛山)、これ、なかなかの景勝地らしいんだけどね。
ここに登場する大虎も、非常に手強い相手なのだ。
主人公の父親であった、優秀な猟師を、喰ってしまうのだ。
それで、息子が、なんとか仇を討とうと思うわけ。
「でも、お前、そんな腕前ではあの大虎は倒せないよ。お前のお父さんだって、腕の良い猟師だったのに、食べられてしまったのだからね」
お母さん、そう言って、ともかく何年も、何年も、息子の銃の腕前をあげていくんだよ。
頭にのせた壺の耳(取っ手)を打ち落とすとか。
最後には、手にした針のめどを射たせるとか。
これだけで、10年くらい、かけています(‥
民話なので、あっさりと書かれているが、うむむむ……凄い復讐心だね。
もちろん、息子の腕をあげさせようというのは、お母さんとして、一人息子をむざむざ死なせたくないという気持も大きいわけなんだけど、息子の方も、よくまあ10年も。
諦めもせず、途中で修行をやめてクムカン山に行ったりもせず、頑張るわけだ。
しかし、そこまでがんばっても、やはり大虎は手強かった!
危ういところを、なんとかかんとかくぐり抜け、あわや大虎に喰われて終わりというところも、かろうじて脱出、仇をうち、おまけに嫁さんまで連れ帰ってハッピーエンドになるのですが、ふぅ。
敵役とはいえ、やはり大虎の運命は、悲惨なものなのであった。
ところで、あとがきで松谷みよ子は、もうひとつ別の、トラが出てくる朝鮮民話を簡単に紹介している。
それは「踊りがすきなトラの話」というやつだ。
これ、日本の民話の、「千匹狼」に似ているらしい。
木の上に追い上げた旅人を、トラたちが、トラばしごを作って取って喰おうとするわけ。
ところが旅人が、笛でおもしろおかしい曲をふいたものだから、踊りの好きなトラが、ついつい踊ってしまって、トラばしごは総崩れ!
旅人は助かる事ができました、というものなんだそうだ。
「千匹狼」では、怪しげな、鍛冶屋のお婆という化け猫が出てきて、なんとか虎口を逃れた旅人が、後にたどりついた村でお婆の正体を露見させるという話になる。
一方、猫談義』
で紹介されている、これまた同工異曲の、トラと猫にまつわる話もあるが、内容は「千匹狼」とほとんど一緒。
それらに比べると、踊り出してしまうトラたちの様子って、なんかとっても、おもしろおかしいよな。
旅人は、生きた心地はしなかっただろうけど、情景を想像すると、とってもおかしい。
簡単に紹介されているこちらの民話の方が、私は、好きなのであった。
著者: 松谷 みよ子, 梶山 俊夫
- タイトル: クムカン山のトラたいじ