『タフの方舟 2 天の果実』 | 手当たり次第の本棚

『タフの方舟 2 天の果実』

あこぎな商人、再び( ‥)/
しかも、「宇宙一」あこぎなのだ。
おまけに、主人公タフは、明確なポリシーを持っている。
それは、人も動物も(わけても、ねこを)ことのほか大切にする、ということ。
だからといって、一部の小乗仏教のお坊さんのように、蟻一匹踏みつぶしません、というわけではないけどな。

ともあれ、このタフの特徴が最も良く表されているのは、本巻の収録作『魔獣売ります』だ。
タフが訪れることになった惑星では、いくつかの有力な「家」が、それぞれ、闘技場に獣を送りこんでいるのな。
闘犬とか闘鶏を、もっと大規模で派手にしたみたいなもんだと思えばいい。
こういうものって、エスカレートしがちだけど、とうぜん、タフが仕事を依頼されたということは(タフは、商人だけれど、環境エンジニアでもあり、いろんな生物を生み出せるので)、無敵の獣がほしい、という事だったわけだ。

そうなれば、他の「家」もタフに同じ事を頼んでくるのは、誰だって予測できるだろ?
もちろん、タフには、そんな事、最初からわかっている(タフはゲームの達人でもある)。
だから、とっても巧妙に、かつあこぎに、最終的には全ての「家」に対して、強力な獣を売りつけるわけなんだけど。
その時、ちょっとした、
「……わかりました。では、これにつきましては手前の無料サービスという事にいたしましょう」
なーんて形で、ある仕掛けをするわけだ。
だって、そうだろ?
タフは、生き物の命が大切なんだよ。
そもそも、獣どうしを戦わせる遊びなんて、好むわけがない。

わりと、『魔獣売ります』の手口は、読者にとってわかりやすいけれど、それでも、にやりとしてしまう、楽しいラストだ。

タフは、命を愛する男だ。
でも、決して、ただ働きはしない。
その上で、自分の信条も、ちゃんと守ってしまう。
ジャック・ヴァンスの『魔王子』シリーズその他のように、すごくピカレスクな雰囲気かと思えば、実はそうでもなくて、やっぱ、「悪党」ではなく、「あこぎ」なんだろうなあ。

なんつっても、最初から最後まで、商人らしく腰が低い、でも決して相手におもねらないというところが、良いよな。

ところで、第1巻と同じく、今回もわりと聖書からとってきたモチーフが見られるんだけど、今回のは、『出エジプト記』あたりを読んでおけばわかりやすい。
モーゼがもたらす十の禍、炎の柱、天から降るマナ、なんてモチーフはだいたいそこに載ってるはずだ。
もっとも、例によって、聖書の知識がなくても大丈夫。
面白いよ。

目次--------------------------
タフ再臨
魔獣売ります
わが名はモーセ
天の果実
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著者: ジョージ・R・R・マーティン, 酒井 昭伸
タイトル: タフの方舟 2天の果実
ハヤカワ文庫SF
2005年5月31日新刊

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