『アラジンと魔法のランプ』ってどこの国の話でしょう? | 手当たり次第の本棚

『アラジンと魔法のランプ』ってどこの国の話でしょう?

『アラジンと魔法のランプ』といえば、『アラビアン・ナイト』……正しくは『千夜一夜物語』のなかの、有名な物語。これって、どこの国の物語ということになっているか、知ってるかい?
アラビアン・ナイトなんだから、アラビアだろうって?
ところが、違うんです(笑)。

これは、アル・シンの国の話と語られてる。
アル・シン、それは、シナ。つまり中国のこと!
もちろん、シルクロードで結ばれていたからといっても、アラブ圏からみれば、中国は遠い遠い国。
不思議な事がおこりうる「かなたの国」だったわけだ。

ともあれ、アラビア風のランプがあって、それをコシコシコシっ。
こすってみると、ランプの精(ていうか、ランプに閉じこめられている魔神)があらわれ、何でも命令をきいてくれるというのは、子供心にも、
「すごーい!」
こう感嘆してしまうし、
「魔法のランプほしいなあっ」
そう思っちゃう。
子供の頃の私にとっては、ある意味、アラジンはどうでも良い。
魔法のランプすごい!
この話の眼目は、ここに尽きると思っていた。

ところで、このアラジンが結婚する王女。
名前はなんというでしょう?

いや、マジで。
近年、ディズニーがアニメ化した事により、この物語はますます有名になったと思う。
で、おととしだか去年だか、
「ディズニー・プリンセス」という名前で、ディズニーアニメの人気ヒロインがまとめて(?)キャラクター化されただろ?
そのプリンセスたちのプロフィールを見て、私は、「あれ?」と首をかしげたんだよな。

名前がなかったはずの人魚姫に、名前がついているのもさることながら……。
アラジンのお姫様が、ジャスミン?(はあ???)

この物語、いろいろ版がある『千夜一夜物語』の中の、ガラン版、その真中くらいに登場する。
従って、たとえば、ちくま文庫の『完訳 千夜一夜物語』はマルドリュス版なので、収録されていないようだ。
だが、河出書房の『(バートン版)千夜一夜物語』は、バートンがなんたって周到だから(笑)。
末尾に収録されているのだ。
これを参照してみると、王女の名前は、「バドル・アル・ブズル姫」である!

ちなみにバートンという人は、もの凄く豊富な注釈を『千夜一夜物語』に付している事でも有名で、河出書房のバートン版も、その注釈の全てではないけど、かなりの部分が収録されているのだ。
そのバートンによれば、「ジャスミン」というのは、王女の名前としてはふさわしくない。
なんと、奴隷女の名前なんだそうですよ( ‥)/
昔のアラビア人は、黒人奴隷に名前をつける時、その黒い肌の逆を思わせる名前を、わざとつける事がよくあった、というのですね。たとえば、珊瑚を意味する、マルジャナー、とか。で、ジャスミンもそのひとつにあげられているのだ。
なかなか面白い話だったので、この注釈、憶えていたわけです。

王女ジャスミン……ぐああ、違和感ありあり~(笑)。
いや、確かに、「バドル・アル・ブズル姫」というのは、名前として、長い!
子供向けのアニメには向かないかもしれない(笑)。
だから、ディズニーが、名前をあえて違うものにした意義は、わかるんだけどな(笑)。
大きなお友だちには、「お姫様の名前はバドル・アル・ブズル姫」とおぼえておいてほしい、なんて思ったりする!

ともあれ、この『アラジンと魔法のランプ』は、とっても不思議で、愉快で、面白い物語であるのは間違いない。ディズニーを見た子供も、絶対好きになりそうだよな。
悪い魔法使い、凄い魔法の宝物、美しい王女、ランプをめぐって危機に直面したりとか、ハッピーになったりとか。
ストーリーも、最後まで、ハラハラドキドキだ。

何年もイラクで続いている不幸な出来事が、ニュースにのぼってきたりすると、すさんだ気分になってしまうけれど、こんなステキな物語を生み出した文化のある国なんだなあ、というのも、忘れたくないよね。そういう意味では、ディズニーにも大いにがんばってほしい!
そうそう、ディズニー以前にも、この物語ってヨーロッパで人気があったんだって。
ガランやマルドリュスらによる『千夜一夜物語』の翻訳・紹介は、ヨーロッパにちょっとしたブームをまきおこしたらしいんだけど、中でもこれが人気があったっていうのは、やっぱり、わかりやすいからかな。

わかりやすいっていうのも、物語にとっては、重要な事なのかも(笑)。