『エロイカより愛をこめて』 スパイ、ハードボイルド、そしてコメディ | 手当たり次第の本棚

『エロイカより愛をこめて』 スパイ、ハードボイルド、そしてコメディ


スパイものである。
ハードボイルドである。
しかも、コメディである。
少女漫画のコミックスから出ているといって侮ってはならない。(最初の数巻はともかくとして)キャラクターがちゃんと、白人の成人男性に見える。細かいとこ言うと、単に、頭のハゲた人がいるとか、鼻がでかいとか、そういうのだけではなく、手ががっしりしてるんだよ。
細かいかもしれませんが、重要です。これがあるので、リアルに「白人の成人男性だ」と感じられるのだ(笑)。

ストーリーも、また、侮れないのだ。
なまじっかな小説より、きっちり背景が調べてあって、読み応えがある!
政治情勢、経済情勢、科学技術の情勢など、作者はその都度、専門家にあたるなどして、調べているらしい。すばらしい。
英米のスパイアクション小説を読んでるような、リアルなステージになっている。

いや、これだけならね。青年向けの漫画などにも、あるだろうと思うよ。
素晴らしいのは、そういう、かっちりしたハードボイルドな舞台で、かつ、ハードボイルドな小道具を使って、なおかつハードボイルドなストーリーを仕立てて、そこで、コメディをしている事なんだよね。

その証拠に、登場人物は、それぞれ、性格がデフォルメされている。
背景の世界情勢は刻々と現実にあわせて変化していても(この漫画、20年以上にわたって描かれてるのだ!)、登場人物は年を取らない。
昇進もしていないし、部署の移動などもほとんど行われない。

人間シェパードのような、「少佐」こと「鉄のクラウス」が、真面目だったりぐうたらだったりする部下をこき使い、どっしりした元「オリンピックのボクシング金メダリスト」である「こぐまのミーシャ」をはじめとする、ロシアその他の諜報機関を相手取り、国際的なスパイアクションを展開しつつ……。
彼らはなんと、常に、「華麗なる美術品泥棒」である金髪の美形イギリス貴族「エロイカ」に翻弄されるのである(笑)。
(ていうか、エロイカの雇っている超弩級にケチな計理士「ジェイムズくん」にエロイカ含む全員が翻弄されているというべきか)。

洋の東西を見渡し、小説、映画、漫画とあらゆるエンターテイメントのメディアを網羅しても、こんな作品は絶対他にないと思う。いやあ、笑えます。そして、笑えるだけではない、というところが、すごい。


 
 
著者: 青池 保子
タイトル: エロイカより愛をこめて (28)
タイトル: エロイカより愛をこめて (29)

著者: 青池 保子
タイトル: エロイカより愛をこめて (30)  「ビザンチン迷路編」(28~30巻)