〈反地球シリーズ〉知る人ぞ知る問題作(笑) | 手当たり次第の本棚

〈反地球シリーズ〉知る人ぞ知る問題作(笑)

〈ゴル・シリーズ〉ともいう。今でこそ、SFやファンタジイやホラーの中で、かなり過激なセックス描写がある、なんてのも、それほど珍しくはなくなったけれども、このシリーズが出た当時は、
「SFではなくSMだ」
とか、かなーり本国アメリカで物議をかもしたそうだ。ファンもたくさん、攻撃する人もたくさん! えらくながーく続いているが、日本では6巻まで、和訳がでております。
ちなみに、1~3巻は、かの武部本一郎画伯の挿絵。

このシリーズの興味深いところは、まず、〈火星シリーズ〉、つまり『火星のプリンセス』(ああ、デジャー・ソリスさま)に代表されるバロウズが創出したフォーマットの宇宙異世界活劇もののスタイルを取っている事。このスタイルを、バロウズ・タイプと呼ぶ。あまりに特異なので、ふつうのスペオペとは、かように区別されております。

ただ、バロウズ・タイプは、いかにもなアメリカン・ヒーローで、どんな苦境にあっても決してくじけないのが大きな特徴でもある。それは、〈火星シリーズ〉の主人公、ジョン・カーターの名台詞
「私はまだ生きている!」
(生きてさえいれば逆境から抜け出して勝利を手にできるのだ)
という一言に、よーく言い表されているのでありまするが。

ところが、〈ゴル〉のタール・キャボットくんは、次々と逆境に投げ込まれ、確かに自力でそこから抜け出しては来るのだけれども、基本的に、運命に流される人なのだ。いや、ジョン・カーターとて、偶然火星(バルスーム)に行ってしまうと、そこから地球に帰ろうとする努力はほとんどしてないので、運命を受け入れちゃった人という点では共通なのだが、タール・キャボットの方が、より、その傾向が強いわけだ。特に、巻を追うと、それが顕著になっていきます。

ていうより、凶悪な運命にふりまわされるが、そこに出現する絶対的な存在が与える「使命」を果たすヒーローとなるよりは、
「俺は自分の愛する人を探し出して一緒になれればそれでいいんだ!」
という一点にしがみついてしまうのだ。

むむ、どこかで聞いたような……。ドリアン・ホークムーン(マイクル・ムアコック作の、あれ)と一緒じゃあないですか?(笑)

つまり、主人公の性格としては、ムアコックが提唱し、導いた、ニューウェーブに属するものなんですね。言ってみれば、正統派ニューウェーブタイプのヒーローなのであった。

んでもって、出版当時論争のまとになった、「エロいだろSMだろっ」の指摘は、現代では、なーんの力ももたないと思われる。そうです。現代の基準にてらせば、まるっきり大人しいです。いや、楽しいけどね(笑)。今のSFとかファンタジイを普通に読める人ならば、絶対に大丈夫。

更に、このシリーズには、付加的な魅力もあるのだ。それは、ギリシアやローマの風俗が、惜しげもなくモデルとして使われてる事。ここらへんに興味のある人なら、「おお、これはアレだねっ」と思い当たるものが、ビシバシとあるはず。私、海戦の描写には、思い切り耽溺してしまいました。いやー、いいぜい。

ただ、ネックは、訳が6巻でストップしている事。5巻で大きな衝撃を受けてしまったタール・キャボットくん、そのあたりから、落ち込みすねまくりウツ状態に突入し、ヒネクレ者になってしまうのですよ。しかもその状態から浮上するには、何巻もかかるのだ!
和訳の最後のとこは、落ち込んでいくとっぱななのです。なので、訳だけ集めて読んだ場合、ちと、イラだたしさが残る可能性は、あり。

〈反地球シリーズ〉(ジョン・ノーマン作 創元推理文庫SF)
〈火星シリーズ〉(エドガー・ライス・バロウズ作 創元推理文庫SF)
〈ルーン之杖秘録〉(マイクル・ムアコック作 創元推理文庫SF)



著者: ジョン・ノーマン, 永井 淳
タイトル: ゴルの巨鳥戦士



著者: ジョン・ノーマン, 永井 淳
タイトル: ゴルの無法者



著者: ジョン・ノーマン, 永井 淳
タイトル: ゴルの神官王



著者: ジョン・ノーマン, 榎林 哲
タイトル: ゴルの暗殺者



著者: ジョン・ノーマン, 榎林 哲
タイトル: ゴルの遊牧民



著者: ジョン ノーマン, 榎林 哲
タイトル: ゴルの襲撃者

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