皆さんは、今の仕事を選んだきっかけはありますか?
看護師と一言に言っても、その中にはたくさんの現場があります。
例えば
・病院内の特定の診療科病棟
・耳鼻科クリニックの外来
・訪問看護ステーション
・長期療養病院
・病院の地域連携室
・有料老人ホーム
・デイサービス
・回復期リハビリテーション病棟
・総合病院の看護部の役職業務
今挙げた以外にももっとたくさんの現場があります。
その人それぞれに理由があったその職場を選んでいると思います。
夜勤をしなくていいことを優先順位として掲げている人もいれば、給与面をより大事にする人、自分の好きで得意な分野を選んでいる人もいるでしょうね。
私自身は、看護師になってからいくつかの職場を経験した後、訪問看護の仕事に落ち着きました。数ある看護師の職場の中で、「なぜ自分が訪問看護を選んでいるか」。これは今後自分が看護師を続けていく上で大切なことだと思うので、今回は「私が訪問看護を志したきっかけ」についてご紹介します。
在宅看護実習
看護学生には、卒業のために必要な実習の単位数があります。大学と同じです。
ある一定の時間は必ず実習に出席して、決められている記録を提出しなければなりません。具体的に何をするかというと、病院実習では一人の患者さんを受け持たせていただき、その患者さんの病態を勉強しながら看護過程を展開します。
病院以外では、地域の医療福祉を学ぶためにデイサービスや保育所、保健所にも実習に行きます。私の通っていた学校では、就労支援事業所にも実習に行きました。
その中の実習先のひとつに「訪問看護ステーション」があったんです。
当時の私はすでに准看護師を取得して、病院の透析室で働きながら学校に通っているいわゆる「勤労学生」でした。なので、まっさらな看護学生よりは多少看護師をかじっていたわけです。そんな当時の私が衝撃を受けた「訪問看護」の実習。
今でも鮮明に覚えています。
在宅看護実習での忘れられない衝撃
衝撃①
エンシュアリキッドで生活している精神疾患患者さん
精神科訪問看護指示書のもと訪問している40代の双極性障害の患者さんでした。訪問に行く前に指導看護師さんから「この人は食にこだわりがあるのかないのか、元気なんだけどエンシュアしか口にしない人なんだよね。それで長年過ごしてるの。」という事前情報。
衝撃…(笑)
エンシュアっていわゆる栄養補助食品なので、病気で食欲が落ちた人とか高齢者の栄養補助で使われるイメージでした。1本のカンカンのジュースに結構なカロリーが含まれているけど、「ほんとにエンシュアだけで元気に生きられるんだな~」と驚きました。
これまた実際のその人が結構顔色も良くて体形もやせ細ってなくて。でも確かに自宅にはエンシュア以外の食品はなくて。
病院とかだと、患者さんが食べないことに関して「食べなきゃだめだよ!退院できないよ!」なんて言いがちなんですけど、エンシュアだけで地域で元気に生活している人もいるんだなと思いました。そう思うと「エンシュアで生きる」っていう価値観とかこだわりを尊重することも看護だよな~とか思った出来事でした。
衝撃②
血糖値300台でも治療しない透析患者さん
これまた指導看護師さんの事前情報「糖尿病からの透析になった患者さんなんだけど、透析には通ってるけど糖尿病治療はまったくしてないんだよね。だからいつも血糖値300とかなんだけど本人はそれでいいって言って聞かないの」
医療者からみると「コンプライアンスの悪い患者」と認識されやすい事例。実際そうなのかもしれないけれど、治療するしないの価値観も人それぞれ。その人にとっては透析治療は仕方ないけれど、インスリン治療はしない。高血糖で死んでもそれでいい。
実際その当時、透析室で働いていたので全員ではないけれど透析患者さん特有の頑固さ(価値観)については慣れていました。でも、その職場である透析治療を受ける人たちが家でどんな生活をしているのかはまったく知らなかった
その高血糖でも治療しないまま今の生活を続けるという価値観を尊重できる訪問看護師ってすごいなーって思ったのを覚えています。
訪問看護師さんのすごさ
患者さんに対する衝撃もありましたが、訪問看護師さんのすごさに感動したことも私にとっては訪問看護を志すことになった大事なエピソードです。
①便秘の患者さんに打診をする看護師
看護師のフィジカルアセスメントにおいて、よく言われる「五感を働かせる」
必要な看護技術として「問診・視診・聴診・触診・打診」などがあります。
この中で私が、実際に病院の現場で働いている看護師さんで「打診」を行っている方を見たことがありませんでした。もちろん教科書でも授業でも習う技術なのですが、実際にそれを用いている人に出会ったことがなかったのです。
だから、訪問看護実習の時の指導看護師が便秘状態をアセスメントするときに、自然に打診をしている様子がとても新鮮で感動したんです。「ガスも結構溜まってそうだから、温めてマッサージしてみましょうね」と声をかけていました。
病院であれば3日間排便がないという情報だけで第一選択として下剤を使いますし、温罨法や腹部マッサージをゆっくり行うことは少ないです。そして、実際に腹部に便が貯留しているかはレントゲンを撮影すれば分かります。
在宅って、便利な検査機器もないし下剤を使用したとしてもその介護負担を担うのはご家族です。これこそ五感を働かせておこなう本当の看護だな~って思ったんです。
その看護師さんを思い出して、今ではばっちり「打診」技術を活用していますよ。
②結構な専門的なリハビリをする看護師
病院ならベッド上での四肢ROMや専門的なリハビリメニューはすべて理学療法士(PT)さんが実施していました。病院の看護師さんが実際に四肢ROMをしているのを見たことがなかったし(というか、そんな時間がなさそうでした)、リハビリといえば術後リハビリでせっせと歩くのを助けるだけ。
この訪問看護の実習の時に、看護師さんがPTさんがやるようなリハビリを1時間しているのを見て「すごーい」と思ったのを覚えています。
実際に私が看護師になってからも、訪問看護に世界にくるまでは本格的なリハビリなんてやったことはなかったですね。
強いて言うならICU時代に、意識のない長期臥床の患者さんの四肢ROMをちょろちょろってやってたくらいです。
訪問看護が最終地点かな
とにかく看護学校時代の訪問看護の実習がいつまでたっても忘れられなかったんです。色々な現場を経験したからこそ、私が看護師としての現場の最終地点は「訪問看護」かなと思っています。病院や施設のお仕事もやりがいはありましたが、訪問看護に勝るものはないですね。
大変なことや挫けそうになることがあっても、「やっぱり訪問なんだよな」と思えるのはこの実習の出来事があったからかもしれません。