「アクサン4」というクラシック音楽を放送するアルザス地方のラジオに、幸運なことに取り上げて頂けることになりました。
今回は、日本人クラリネッティストと私とのアンサンブル演奏が20分ほど流れます。
◆4月28日(火)
フランス時間18時〜
(日本時間28日深夜25時〜)
◆Accent 4 (アクサン4 )番組名『Les nouveaux talents classiques - Playlist』
該当の放送時間中に下のリンクをクリックすると、フランス国外でも放送中の番組がライブで聴ける…はずです。
そう、アルザス地方在住でなくとも!
日本であろうとも!です!
https://www.radio.fr/s/accent4
再生ボタンを押したらYouTubeみたいに広告が出るけど、怪しくありません。
私達以外にも何組か同番組内で放送されるようです。(おそらく2組目として流れます)
◆クラリネット:富樫由佳
◆ピアノ:松田琴子
◆プログラム:
ノルベルト・ブルグミュラー: ピアノとクラリネットのためのデュオ 変ホ長調Op.15
アルベニス: 愛の歌(クラリネット、ピアノ版)
シューマン: 3つのロマンスより第2曲(クラリネット、ピアノ版)
番組に関するサイトはこちら。
リンク先はフランス語ですが、約1分ずつ3曲を試聴できます。
https://nouveaux-talents-classiques.com/2020/03/31/duo-yuka-togashi-et-kotoko-matsuda/
ぜひ外出制限や自粛のお供に、聴いて頂けたら幸いです!
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(以下はこの録音に関する裏話ですが、なにか演奏に対して言い訳をしたり、責任をなすりつけたりするつもりのものではありません!演奏が皆様にどう聞こえようと、与えられた中で仕事をする私の責任と思って弾いています。これはただ、いつも通り私のドタバタを記録しているだけです。笑)
私の記憶が正しければ、このラジオ放送のための録音の話が正式に来たのは3月2日だった。
今回のクラリネッティストの由佳さんからお声がけ頂いたのだ。
この日、私の目の前で、由佳さんは今回のディレクター兼サウンドエンジニアたるフランス人男性と電話をした。
話はとんとん拍子にまとまった。
「では録音の日程ですが、明日か明後日、または来週の月曜日でどうでしょう?」
「来週の月曜日でお願いします」
「分かりました。では貴女のレパートリーのリストの中から、演奏して欲しい曲をこちらで選んで折り返し連絡します」
そう、録音1週間前の時点で、まだ演奏曲目が決まっていなかったのだ。
ご想像頂けるだろうか。
本来数週間、数ヶ月かけて吟味しながら曲を完成まで持っていくのが常であるクラシック演奏家にとって、これはなかなか戦慄すべき事態だ。
ただし、エンジニアの男性に非はない。
彼はそもそもすぐ演奏できる演奏家を探していてすぐ録音できるレパートリーを提示するよう求めていた。
そして、由佳さんは彼女がすぐに吹けるレパートリーを5,6曲彼に提案した。
プロフェッショナルとして当然の対応である。
この場で、大変なハッタリをかましていたのが誰あろう私である。
白状しよう。
この時点で、私はこの由佳さんのレパートリーの中に一曲も演奏したことのある曲が無かった。
でも引き受けちゃった。
この仕事やりたかったんだもん。
由佳さんはいわば共犯になってくれた。
彼女は私がクラリネット伴奏のレパートリーが少ないのを知るや、私と相談しながら、私が数日で弾けるようになりそうな曲ばかりをリストアップした。
それを「これらなら私達いつでも演奏できます」と言って提出したのだ。
実際は、彼女の伴奏者はこれらの曲をほとんど練習すらしたことないという事実を隠してである。
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そうして、エンジニアさんがレパートリーの中から3曲を選び、こちらに通達してきたのが翌日の3月3日だった。
録音は3月9日。
中5日である。
中5日で、絶対になんとしても20分のプログラムを初見から完成まで持っていかなければいけない。
共犯になってくれた由佳さんに迷惑をかける訳にいかないのだ。
そこからの私の修羅場、練習ジャンキーっぷり、過去最大級の自業自得スケジュールは、実はこちらの記事に少し書いた通りである。
実は、私はようやく3月1日にこの15平米のアパートに移り住んだところであったが、引っ越したばかりの部屋の住み心地を整えるのなんか、完全に後回しになった。
最低限熱い湯を浴びて、死んだように寝られさえすれば良いのだ。
録音は3月9日にスタジオで行われた。
今考えると、その翌週の3月17日正午からフランス全土で外出制限が始まったわけで、滑り込みで録音ができたのは大変ラッキーだった。
そう、この頃は、まだ狭いスタジオでマスクも無く、換気もせず(マイクが空気の音を拾ってしまうので)複数人で顔をつきあわせて数時間セッションをすることが出来ていたのだ。
しかし話を受けた時点で正直に
「練習期間をせめて2週間ください…」
と言っていたら、おそらくこの仕事は外出制限に引っかかって不可能になり、立ち消えになっていたのである。
何がどう転ぶか分からないものだ。
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さて、その録音の日、私は予想外の経験をすることになる。
「今日のあなたの楽器がこれだよ」
と自信満々に紹介されたのが、なんとキーボードだったのだ。
すっかりピアノを弾くつもりで来た私は、面食らった。
「今日キーボードで演奏なんですか!?」
聞いてないよ!というニュアンスの発音が喉元まで出かかったが何とか耐えた。
ピアニストには、たびたび本番でキーボードしか用意されていないことがある。
だが、キーボードはピアノとはほぼ別物の楽器であると言わざるを得ないことが多い。
キーボードを弾きこなしてお仕事している方達と、普段はピアノを弾いている私達、指の運動は似ているけど、仕事内容はかなり違うと言って良い。
キーボードの本番はやりたくありません、なんて言わない。
ただ、キーボードなら一言、それを前もって言って欲しかった…!!
しかしエンジニアの彼は、むしろ胸を張って言った。
「そう、これがピアノ・モデリゼだよ!」
※ピアノ・モデリゼ=モデライズされたピアノ。
ピアノ・モデリゼとは何か?
そして弾き心地は?という続きは次回。
ほぼ信じられないことに、ラジオや上に挙げたサイトで聴けるピアノ演奏は本当にこのキーボードで行なっている。
お時間があったら少しだけ聞いてみて欲しい。
驚くほど本当のピアノに近く聞こえるので。