結婚準備が始まった。
結婚とはこういうものなのだろうかとどこか冷静な私もいながら、楽しそうに準備を進める彼を見ていると、
「こんな私でも誰かを幸せにすることができるんだ。」
という気持ちになっていた。
この暗い気持ちはマリッジブルーなのかもしれない、そう言い聞かせながら。
彼が作った結婚式のパンフレットは、彼ワールド満載だった。
おもしろおかしく創作された2人の様子が載せられいたが、そこにはずけずけとものをいいあごで夫を動かす私ではないキャラが、そこにあった。
「こんなの私じゃない。」と抗議しても、当たり前だがお構いなしである。
私の意思は、ことごとく無視されていく。
婚礼衣装の試着にも、仕方なく遅れて来た彼は関心がない。
ずっと退屈そうに、持参してきたパソコンのゲームに興じていた。
「ご主人見ないですね。照れくさいんでしょうか。」
と、周囲が気を使うほどである。
私はもうこの時すでに、大きな不安を抱えていたのである。
自分がわからないところで事がどんどん進んでいく、渦に巻き込まれたような思いで、その日はやってきた。
この時私に生きていける強さがあったなら、と悔やまれてならない。
結婚式当日、彼はいつものよれたTシャツを着て会場に現れた。
食べこぼしのシミはついているし、風呂にも入った様子はない。
衣装部屋に入るが面倒なのか終始機嫌が悪く、衣装係の人に、衣装がきついだの小さいだのと当たり散らすありさまで、本当に心が痛んだ。
式場では挨拶に人々が次々きてくれるが、彼は出された料理をひたすら食べていた。
来てくれても返事もしないので、その間の対応は全て私である。
今考えると、これからの生活を象徴するような式だった。
違和感を感じた人たちも多かっただろう。
演奏や料理を偉そうな口ぶりで批評しながら、彼は式を楽しんだと思う。
私は食べ物は一口も食べる事ができず、水も飲めず、式が終わった後もウェディングケーキのかけらを食べただけだった。
満足そうに寝ている顔を、私は不安に包まれた思いで見ては、窓から見える空を眺めていた。
大学3年、21歳の花嫁だった。