もやもやとしたものを抱えながら、夏が来た。

 

彼からは毎日のように電話が来ていて、気が乗らない時には断りつつも関係は続いていた。


ある日、彼の大学時代のサークルの友人が、九州に遊びにくるという。

一緒に名所巡りをしてほしいという彼に、私は地元を紹介したい気持ちで様々な準備をすることにした。
お客さんをおもてなしするのは、とても好きなのである。


美味しいお店やルートなど、準備をするのはとても楽しかったのを覚えている。

そして彼の友だちに紹介されるということは、正式な彼女としてということだ。


きっと照れ隠しで(恋愛脳でバグを起こしている)、私に「団子っ鼻」だの「足が太い」だのと失礼なことを言うけれど、「彼女」として知人に紹介されるだろう初めての体験に、期待が膨らんでいた。

 

大学時代の友人ご夫婦は、とても穏やかで何を言われてもニコニコとしているタイプで、彼との関係も良好なものに見えた。
私に対しては気遣いを見せない彼にも、ちゃんと友だちがいるのだと少しホッとしたのを覚えている。

 

初めましての挨拶を済ませ、ご友人が話す「お前こんな人どうやって知り合ったの」と言うおべんちゃらに対し、
「大学のゼミに潜り込んだ」
「こいつ?頭悪いよ笑」※
「彼女じゃない。『オ・ト・モ・ダ・チ』(含み笑い)」

 

お友だち夫婦のは一瞬固まったが「お前何言ってんだ、照れ隠しだろ」とその場は流れ、私も笑顔でその場を取り繕うと、旅は始まった。

私自身が楽しかったというのもあるが、私の案内は完璧だったと思う。
故郷である福岡を、たくさん知ってほしいと思ったから。
彼も楽しそうにしていたように思う。
そして、お見送りの時が来た。

帰りに、

「記念に2人の写真撮るからそこに並んでよ」

とご友人が言った時、彼が言った。

 

「え?やめてよ。証拠残したくないよ。」

証拠‥?
私と一緒にいる事実は不都合だということ?


「大丈夫です。ありがとうございます。」とお友だちに非礼を詫びたが、私は自分を否定された事実に打ちのめされていた。

 

見送りをした後、私はその日の彼の数々の心無い言動が我慢できず、とうとう泣き出してしまった。

 

「『頭が悪い』なんて生まれてこの方人に一度も言われたことがない。ひどい。」
「『オ・ト・モ・ダ・チ』」って、指立てあの言い方何?セフレってこと?」
「証拠残したくないなら、喜んで今すぐあなたの前から姿を消す!」

 

すると彼はひどく青ざめ、
「悪かった。君のことが本当に好きになった。だから、自分のことを好きでいてほしい。」と、私をなだめた。

「『好きになったから、好きになって』って何?こんな悲しい思いまでして、あなたと一緒にいる理由も目的もない。これからの事は考えさせてもらう。」

と言い残し、私は車を降りた。

 

彼の言動から、水を浴びせられるような「嫌」が積もっていく。
私は、彼とはもう会わないことを決めた。

 

※人前で誹謗されることは、DVに当たる。