最初のデートが終わった後。
彼の店員に対する横柄な態度や、心ない言動に「ないない。」と見切りをつけた私は、彼のことはすっかり忘れていた。
しかし、4日ほど経ち彼から電話が来た。
「また会いたくなってしまった。これはレアなケースだ。」
聞けば、中古車を買ったのだという。
不器用な人なのかもと思い、出かけてみることにした。
2度目のデートは、1度目よりは楽しかったように記憶している。
偉そうな口ぶりは耳についたけれど、それに対して意味を聞き返すとドキマギして言い直す様子もあり、この頃はまだ私も対等で、今考えると彼は私に好かれるために相当の努力を重ねていたと思う。
ただ「普通ならしない」ことを繰り返してはいた。
私と歩いていて、女の子とすれ違うと顔を見にわざわざ道を戻ったり、当時流行っていたキャミドレスを着ている女の子の胸元を覗き込もうと、吸い寄せられて歩いて行ってしまうことがあった。
呆気に取られている私に「心配するな。君の勝ちだ。」と言う。
勝ちと言われても、嬉しくも何ともない。
他と比べられて私はとても傷ついていたと思う。
性的なことで言えば、彼は幼稚で卑猥な言葉を頻繁に使い、男の子同士がするような言葉をよく私に聞かせていた。※
本格的に付き合い始めてからは、元カノの身体と私の体の違いや、彼女のどこが好きだったかを、それで相手が傷つくことも元の相手に失礼なことも意に介さず、得意げに話した。
「男はばら撒く生き物。そう言うもの。」と言われれば、女の私に永遠に理解できるわけはなく、反論のしようがない。
さすがに耐えかねて、
「分かった。じゃあ私も元彼とのあのことについて、話すね。」
と話したことがあるのだが、その時彼がとても驚いて困惑したのを今でもよく覚えている。
この時から私は確かに、傷ついていた。
しかし一方で、厳格な父と従順な母のもとで育ち、いつも男性を立て先回りすることを教わって生きてきた私は、
思ったことをそのまま口にし、どんな人に対しても歯に衣を着せずものをいい、自分の生き方を肯定し夢を雄弁に語る彼を、羨ましいと感じたのもまた事実だった。
交際が進めば、際どい話も「夫婦のように心を開いてくれているのかもしれない」とか、どこまで自分を許容してくれるのか試しているのかもしれない、と思うようになる私がいた。
恋愛脳のバグである。
人間同士だから、長い時間の中で擦り合わせていけるものだと信じていたのである。
しかし‥
それは、この先どこまでも続いていくのである。
※現在では卑猥な言葉を聞かせたり、画像を見せたりすることはDVに当たる。
