『患者になって気づいたこと』

第5回目は「検温」についてです。

 

入院中、検温は日常的な医療行為です。

看護師さんが朝、昼、夕と定期的に病室に来て、体温を測定します。

血圧、脈拍数、血中酸素濃度の測定も同時に行われます。

 

病棟には、新人からベテランまで多くの看護師さんがいますが、その検温の仕方は実に様々です。

病室に入る際の足音、声のトーン、カーテンの開け方、挨拶の仕方など、すべてが看護師によって異なります。

 

動作の速さや音の大きさ、笑顔の向け方も、人それぞれです。

また、体温計の渡し方や血圧を測る際の腕の扱い方にも個性が現れます。

 

 

ルーチンワークとして義務的に行っている方もいれば、心を込めて仕事をしている方もいます。

患者の立場からすると、その違いは非常に明確です。

ひとつひとつの動作に心がこもっているかどうかが、手に取るようにわかります。

 

この違いこそが、マインドの表れではないでしょうか。

すべての動作は、非言語的なメッセージを伝えています。

以前触れた「ため口」の話もそうですが、言葉以外のメッセージは非常に重要です。

 

認知症の方へのケアのひとつに、「ユマニチュード」という技法があります。

私も実習を通して学びましたが、患者さんの手を上から掴んではいけないと教わりました。

 

認知症の方にとっては、それがまるで逮捕されたり、連行されるような感覚を引き起こすからです。

本来は、下から優しく支えるようにするのが正しいと教えられます。

しかし、ほとんどの看護師は、上からガシッとつかむように私の手を扱っていました。

 

体温計の渡し方も千差万別です。

何も言わずに胸元に体温計を差し込む方もいれば、体温計を丁寧に手渡してくれる方もいました。

 

目的は、患者の体温や血圧などのバイタルサインを確認することです。

しかし、その所作のひとつひとつに、これほどまでに人柄が現れることを、私は初めて知りました。

 

ここで思い出されるのは茶道です。おもてなしの要素は3つあります。

① もてなし(待遇、接待、歓待など)
② ふるまい(心のこもった態度、姿勢、表情、作法、行為など)
③ しつらい(設備、建物、道具、料理、お茶、生け花、器など)

 

もし私が病院長や看護部長であれば、②の「ふるまい」を最も大切にするでしょう。

些細な所作が、患者の快適さや不快感に大きな影響を与えるのです。

 

プロフェッショナルとしての「看護」を極めたいのであれば、義務的ではなく、心を込めた丁寧な仕事をして欲しいと思います。

「看護道」や「ケア道」と言っても過言ではありません。

 

救急の現場では難しいかもしれませんが、少なくとも通常の病棟であれば、可能であるはずです。

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

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