きのふは午前中から夜十時まで家を一歩も出ずに原稿に取組ませて戴いた。
 最初に『吉野朝御製に學ぶ日本の心』を謹撰作業で後醍醐天皇、後村上天皇、長慶天皇迄を行ひました。後龜山天皇については今日取組ませて戴きます。明日から御謹解させて戴く豫定にしてゐます。
 次に本居宣長翁の『玉鉾百首謹解』を五首程させて頂き、後鳥羽天皇全御製データ打込作業を二時間程行ひ、その後、藤井先生のご研究である「人工知能による和歌創作」用のデータ作り作業を夜まで掛けて行はせて戴いた。
 けふも大體同じ作業になりさうだが、來月の京都三上邸『先代舊事本紀勉強會』の資料作りの下準備と室町戰國時代『御製に學ぶ日本の心』の出版原稿の後土御門天皇御製の校正作業の目途も立てられたらと思つてゐる。
 今朝から毎日とはゆかないが、本居宣長翁の『玉鉾百首謹解』を一首ずつ御紹介させて戴くことにした。これについては、戰前賀茂百樹が解釋されたものがあるだけなので、參考にしつつ私なりの解釋に取組ませて戴いてゐる。
 本居宣長大人が、日本國體の精髓を和歌として書かれたものがこの『玉鉾百首』であるので、國體について現代の方々が少しでもご理解して戴けるものになればと思つてゐる。
 
 
 ◇ ◇ ◇
 
 
本居宣長翁【玉鉾百首謹解】1
 

《その一》

撞賢木(つきさかき)嚴之御魂(いつのみたま)とあめつちに
 いてり通らす日の大御神 


【原文】都伎賢木伊豆能御靈登天地尒伊照登富羅須日之大神
 
「撞賢木(つきさかき)嚴之御魂(いつのみたま)」…「撞賢木(つきさかき)嚴之御魂(いつのみたま)天疎(あまざかる)向津媛命(むかつひめのみこと)」のこと。
「あめつちに」…「天地に」。
「いてり通らす」…「強く照り拡がる」。
「日の大御神」…「天照大御神のこと」。
 
《歌意》
 榊に宿り、清らかな魂を持つて高天原より降つて、繋げるための神を通して、その大御惠を強く照り通らせ、萬民に幸を廣げむとされし御神こそ天照大御神なるぞ。
 
【解説】
 「撞賢木嚴之御魂」とは、神功皇后が神憑りになつた時に降りて來られた神になります。この神名の解釋は、「榊に宿り、清らかな魂を持つて高天原より降つて、大きな慈愛を持つて國難に對處する神」といふ意になると想像できます。
 神功皇后に神憑りになつたこの神は、朝鮮半島征伐の前に降りし天照大御神の荒魂の神と考へられます。この神の神勅によつて朝鮮征伐を神功皇后は決意され三韓征伐を行はれたのでした。三韓征伐は、仲哀天皇が崩御されたその原因が朝鮮半島に在るといふことを啓示されて始まりました。云はば日本國の危機に天照大御神の荒魂が降られたといふことです。
 この「撞賢木嚴之御魂」の正式な神名は、「撞賢木嚴之御魂天疎向津比賣命」で、天照大御神の荒魂でさらに別名を「瀬織津比賣」とも言はれてをります。
 ◇ ◇
【賀茂百樹解釋】
 天照大御神は淸淨なる御靈德に坐す故に、天地間に到らぬ隈なく照り亘り給へるなり、あゝ広大なる御靈德にます哉と也、この大御神は御父伊弉諾命(いざなぎみこと)の御禊の時に現れましゝ故に嚴の御魂にまし、淸淨なる御魂にます故に天地に照徹り給ふと云ふ大人のこゝろしらびにて、この歌を百首の始めに置かれ、卷末に凶事を、みそがせれこそ、世をてらす、日月の神は生出(なりいで)ませれにて結ばれしは、淸明に道の本源にて尊重すべき事を暗に示されしなり、況(ま)して大御神は皇室の大祖、萬神の元首にましますをや、本書を讀むもの大人の深思遠慮を思ふべき也。