本稿は7月13日の續きになります。   
 http://ameblo.jp/kotodama-1606/entry-11571776530.html 



34 藤原興風(ふじわらのおきかぜ)

 
  (生歿年不明 平安時代初期)

  紀貫之と同時代に活躍





誰をかも知る人にせむ高砂の
  まつも昔の友ならなくに

  (古今集)


(歌の詠み方)

上の句 たれをかも しるひとにせん たかさごの
下の句 まつもむかしの ともならなくに


《歌意》
 誰を親しい友人にしようか。長壽で名高い高砂の松も昔からの友人ではないのに。



 歌の間のエピソード

 歌の背景


*『古今集』に「題知らず」として
 載せられている和歌ですが、
 老ひて友がいなくなってしまった
 孤独の侘びしさを詠ったものです。

 語の説明

*「誰をかも」の「か」は疑問詞で、
 「も」は詠嘆の助詞にあたります。
 ですから、この意味は

 「誰を○○にしようかなあ」

 という意味になります。

 ここでは、「誰を友達にしようかな」
 ということになります。

 この「誰をかも」は、
 次の「せむ」に掛かる連用修飾語になります。

 「誰をかも」の「誰」は、
 「たれ」と必ず濁らずに詠んで下さい。


*「知る人にせむ」とは、
 「親しい友達にしよう」ということですが、
 「知る人」は「自分をよく知ってくれる人」ということで、
 「に」は動作の結果を表す格助詞です。

 「せむ」の「む」は意思を表す助動詞になります。



*「高砂」とは、兵庫県加古郡高砂のことです。

 黒松と赤松が合体している
 高砂の相生の松は昔から有名でした。





 世阿弥の有名な謡曲『高砂』は
 この松を謡ったものです。


 結婚式で昔はよく謡われました。

 庶民になぜこの松が流布したかというと、
 能では住吉の松と高砂の松が
 夫婦であるという伝説を素材として
 天下太平を祝福したことから発展して、
 婚礼の祝賀の謡いとして
 常用されるようになったためです。





 その他にも「高い砂の山」という意味もあります。この歌では、高砂という地名を言っています。



*「まつも」は、「高砂の松」のことですが、
 暗に「誰かが來てくれるのを待ってゐる」
 情況を指してもいます。



*「ならなくに」とは、
 「なら」は断定の助動詞「なり」の
 未然形で「~である」という意味になり、
 「な」は打消の助動詞「ず」の未然形、
 「く」は「な」を体言化して、
 「なく」で「…ないこと」という意味になります。

 「に」は接続助詞で「…のに」の意味です。


 人物


*藤原興風は、古今集時代を代表する
 歌人として『古今和歌集』には十七首載っています。


 彼の作る歌は、まさに古今風和歌の
 雅さと美しさに溢れ、
 王朝文化人としての
 面目躍如たるものを感じられるといえます。

 紀貫之と同時代に生きた人です。

 三十六歌仙の一人です。 





*藤原興風は、お琴の名手としても
 名前が残っていますが、
 それについて詳しいことは分かっていません。


 また、家柄は非常に高く
 藤原京家という藤原本流の流れをくんでいます。

 日本で最初の歌學の本
 『歌経標式(別名『浜成式』)』という書を著しています。



 かるた一口メモ


 この歌は、「たれをかも」の
 第二音「たれ」の「れ」で取ることができます。





 基本的に「た」で始まる札の
 全ては第二音で取れる二字決まりの札です。



 この札で注意しなければならないことは、
 下の句で取る人は「まつとしきかば」という札と
 間違いやすいので気をつけて下さい。