本稿は7月12日の續きになります。   
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33 紀友則(きののとものり)

 
  (生年不明~905年頃)

  古今集の撰者の一人






久方の光のどけき春の日に
  しづ心なく花の散るらむ
  (古今集)


(歌の詠み方)

上の句 ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
下の句 しづこころなく はなのちるらん


《歌意》
 陽射しも長閑かなこの春の日に、なぜ落ち着きもせずに櫻の花は散ってしまうのであろうか。



 歌の間のエピソード


 歌の背景


*この歌は櫻の花の散り際の
 美しさを歌ったものです。





 『古今集』に「櫻の花のちるをよめる」という
 但し書きがついて載っています。

  日本人が櫻を一千年以上も前から愛し、
 慈しんでいたことがこの歌からはわかります。

 のどかな春の陽光の中を
 散りゆく櫻にこそ、
 花見とは違った動の美しさが、
 観賞する人の目に
 自然の動きの芸術として
 映ることになるわけです。

 咲き誇る櫻も自然の姿であり、
 散りゆく櫻も、もう一つの自然の姿であるわけです。

 花見とは必ずしも満開の状態を見るだけではなく、
 落花の花吹雪も花見の一つでしょう。


*この歌は、百人一首の中における
 特例の一つとも言うべく、
 彼の歌にのみ「春の日」とか
 「光」(陽光)とかが詠みこまれているのです。

 「夜」とか「月」は百人一首の中に
 何首も詠まれているのですが、
 太陽の方では敢えて関係する用語を選ぶとすれば、
 七番歌「天の原」(阿倍仲麻呂)の
 中の「春日」程度でしょう。

 (中西久幸著『平平点描』より引用)



 語の説明


*「久方の」は、枕詞といって
 和歌を美しくするために
 使われる言葉と前に説明しましたが、
 「天」に関係する言葉につけられます。

 この歌では「光」にかかっています。

 その他「日」「月」「雨」「雲」などに使われます。


*「光のどけき」とは、「陽の光が穏やかである」

 こんな意味になります。

 「のどけ」は形容詞のクケ活用形で、
 「き」は活用形の連用形につく語になります。


*「しづこころなく」は「落ち着いた心がない」

 こんな意味になります。

 漢字は「静心」と書きます。



*「散るらむ」の「らむ」は
 目に見えるところでの推量の助動詞で
 「どうして~だろう」という場合に使います。

 人物

*紀友則は、紀貫之の従兄弟です。

 『古今和歌集』を編纂するに中心となった人です。






 しかし、それが完成する前に亡くなってしまいます。

 三十六歌仙の一人です。






*友則や紀貫之の生きた
 時代は延喜の御世であり、
 日本の国が最も安定していた時代でした。

 政治、文化が飛躍的に発展確立した
 時期と伝えられています。

 その中心にいたのが、
 醍醐天皇であり、
 臣では貞信公(藤原忠平)、
 菅家(菅原道真)でした。

 文化の隆盛が特に華々しく、『古今和歌集』は、
 その集大成といえるものです。


 かるた一口メモ


 この札は、「ひさかたの」の二音
 「ひさ」で取れる二字決まりの札です。




 「ひ」で始まる歌は、この札を含めて三枚です。




 もう二枚は「人もをし」と「人はいさ」になります。

  




 この「ひ」は読み手の発音が
 非常に難しい歌でもあります。


 「し」に聞こえることがありますので
 注意しなければなりません。