キノの旅 -The Beautiful World- Animated Seriesの第10話「優しい国」と第11話「大人の国」について書いていきます。
この2つの話にはとある関係性があります。
先に言ってしまえば、優しい国に登場する少女、さくらは過去のキノの生き写しのような存在です。
過去のキノとさくらの共通点は「名前が同じ(ただし明記はされていないので確証は持てない)」「両親がホテルを経営している」「歳が同じくらい(11歳くらい)」「両親のホテル業を継ごうとしていた」「純粋無垢な少女だった」点です。
過去のキノに関しては大人の国で描写されています。
キノという名前は元々は大人の国を訪れた男の旅人の名前だったのです。
時系列順に話をすると、まずは大人の国。
12歳になると子供達は特殊な脳の手術を受けて、どんな苦痛な作業も耐えられるようになるという儀式を行うカルトでおぞましい国です。
そんな国に一人っ子としてキノ(当時はさくら)は生まれました。
さくらは初めは手術を受けて大人になることを当たり前のことだと疑っていなかったのですが、とあるきっかけによって考えが変わっていきます。
旅人、初代キノとの出会いでした。
初代キノは今のキノのようにモトラド(バイクのこと)で気の赴くままに旅を続ける青年でした。
さくらはキノと話をしていくうちに、自分の好きなこと(歌手になること)をやりたいと思うようになったり、大人になる手術を受けることを疑問視したりするようになりました。
それがさくらの人生にとって大きなターニングポイントでした。
さくらが大人になる手術を受ける前日に両親やその他の大人の前で「手術を受けなくても大人になれる方法はないんですか?」と言ってしまったのです。
それが大問題でした。
大人達は手術を受けることが当然の義務だと信じ込んでいて、手術を受けることを疑問視したさくらを「失敗作」扱いしてしまったのです。
なにせ大人達は子供を「物扱い」していて、ただの所有物としてしか見られなくなっていたのです。
そして失敗作の烙印を押されたさくらは処分という名目で父親に殺されそうになります。
それを救ったのは旅人である初代キノでした。
キノはさくらの身代わりになり包丁で刺されてしまいました。その隙にさくらは、キノが乗っていたモトラドに乗って国から脱出しました。
そのモトラドが今のキノの相棒エルメスです。
エルメスに乗って命からがら国を飛び出たさくらは赤い花が絨毯のように咲き詰める場所に辿り着きます。
そこでエルメスとともに倒れこんでしまいます。
さくらとエルメスが初めて会話をしたのはこの場面です。
エルメスがさくらに名前を尋ねた時、さくらは無意識のうちに「キノ」と口に出していました。
それが「さくら」を捨て「キノ」になった瞬間でした。
次に優しい国の話をします。
優しい国は元々は旅人から非常に評判の悪い国でした。しかし何故かキノはその国に行くことをためらう様子はありませんでした。
いざ国に到着すると大勢の国民から熱烈な歓迎をされました。
キノが安くてシャワーのあるホテルがあるか群衆に尋ねたところ、「ウチがそうだよ」と1人の少女が名乗りでました。
それがさくらだったのです。
さくらは純真無垢で素直で心優しい少女で、キノを色んな場所へ連れていってくれました。
夕焼けが綺麗な場所で、さくらは将来両親のホテルの跡継ぎになりたいとキノに語りました。
さくらはキノに旅をしている理由を聞きます。キノの答えは「僕がやりたいことだと思っているからさ」
その晩さくらは両親からキノのように旅をしてはどうかと提案されます。しかしさくらはそれを断りました。
翌日、またキノがさくらに街の案内をしてもらっていると、教会で結婚式が行われていました。
そこでブーケトスのような意味合いの種投げ(勝手に命名)をしていました。
木の種の入った袋を無事取れれば、将来幸せな花嫁になれるとのことでした。
その種を取ろうとさくらは必死でしたが、結局取れずじまい。しかし代わりにキノが無事キャッチしました。
キノはその種をさくらにプレゼントします。さくらは喜んでいる様子でした。
ここまでは単純に良いお話です。
この後非常に後味の悪い事になってしまいます。
普段キノは国に滞在する期間は3日間と定めています。それがめずらしくもう1日2日滞在したいと門番に申し出るのです。
すると門番には「ルールですので」と断られてしまいます。
キノは皆に見送られて国を出ます。もちろんそこにさくら達の姿もありました。
さくらの父から「西へ行って野宿なら尾根の辺りが良いでしょう。そこより手前は落石の危険もありますから」と助言を受けます。
そしてさくらの母からは食べ物の入った大きな袋と小さな袋をもらいました。
さくらもキノも互いに楽しい思いができたと礼を言い握手をしました。
そしてキノはこの国から立ち去りました。
夜になって問題は発生しました。言われた通り尾根まで来ていたキノはふと嫌な予感を覚えます。
その時、近くの山から火砕流が国に向かって流れてきました。そしてあっという間に国を飲み込んでしまいました。
助言を守ったキノ達は無事に済んだものの、国は跡形もなく焼けてしまいました。
どうしようもないキノはただその様子を静観するほかありませんでした。
その後キノはもらった袋に入っていたさくらの母親からの手紙で事の真相を知ることになります。
手紙によるとキノ達が訪れる丁度1ヶ月前、国を火砕流が襲うことが判明したらしいのです。
しかし、国民達は国を見捨てることはせず、留まることを決意したようです。
元々は難民で、やっとのことで国を立ち上げ、国での暮らし以外を知らない国民にとっては、国の外で生きるより、馴染み深い国と共に死ぬことの方が幸せだったのでしょう。
そして優しい国が「優しい」由縁も手紙には書かれていました。
元々は旅人に無礼な態度を取る国だったそうですが、このままだと人々から旅人に不親切な国だと記憶されてしまうということを恐れて、キノ達に精一杯のもてなしをしたのです。
それが優しい国の事の真相です。
火砕流が国を襲うのを知っていたのは大人達だけでした。なのでさくらの母は無理矢理にもキノにさくらを預けようとしました。
しかし、さくらは両親の跡を継ぐという意志が固く、親子で死を選ぶことにしたようです。
そして袋にはさくらの手紙もありました。「私が持っていても仕方がありません。あなたのです。お気を付けて。私たちのことを…忘れないで」
そう書かれてあった手紙の入っていた袋には木の種が入っていました。
さくらは大人達から知らされずとも、火砕流が国を襲うことを知っていたのです。知っていて敢えて愛すべき国と両親と死ぬことを決めたのです。
これを知りキノは言葉にできない哀しみを感じました。
非常に長い文章になってしまいました。
私が伝えたかったことは2人の少女の行く末です。
片方は国と共に死に、片方は国を飛び出して生き延びた。
表面的にはそっくりなのに、非常に対照的な2人です。
優しい国の話と大人の国の話を続けて放送したことに制作陣の意図を感じます。
どちらもなかなか残酷な話でした。しかしどちらも好きな話です。
大人の国では11歳のキノの歌声と、今のキノの歌声とを堪能できます。
是非その違いを聴き比べてみてください。
未だかつてない長文になったので、全て読んでくださった方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、ここまでの長文を読んでいただきありがとうございました。