久しぶりにヴァイオリンの話です。
ずっと書いてなかったので、書かなきゃなと思っていたのですが・・・・・
もう文章で伝えられる内容ではなくなってきたのです!
でもなんとかまとめますと・・・・・・
ここ2年ほどはセブシックOP3という練習曲と向き合っています。
このセブシックOP3というのは、30以上からなる短い変奏曲なのですが、それぞれで右手の弓の使い方の習熟をしていく内容です。
音大出の私の師匠に言わせますと、「セブシックOP3をクリアすれば、ほぼ右手の技術は全部習得」だそうです。
で、3年半前に、このOP3も見てもらい始めたのですが、まず左手の動きと右の弓の動きの基本ができていないということで、セブシックOP1に取り組むことに。
これは音程をつかさどる左手の4本の指(親指以外)の動きがなめらかに動くための訓練です。
普通、左手の指には人それぞれの癖があって、人差し指から中指、とか小指から薬指、とか、意識をそれぞれの指に向けながら、どんなパターンでも機械のようにスムースに動かしていくのが難しい。
OP1の1から3までを集中的に行うと、自分の左の指にどんな癖があって、どういう動きが苦手なのか、がわかるとともに、それを克服していくことになります。
OP1はプロになっても、時折、左手の指のチェックとして使われます。
(私もいまでもOP1ー3は毎週やって、指慣らしをしています)
で、弓の動きのためのOP3です。
まず指弓との格闘です。
指弓は、前に記したこともあるかと思いますが、弓を持つ5本の指だけで、弓を動かす技です。
弓の上側を持つ4本の指(親指以外です)の関節の柔らかさと強さが勝負どころです。
なぜこの指弓が必要な技なのか?
まず指弓は、弓の動き全体を見たときに、究極のサスペンションとなります。
自動車には、各タイヤのすぐ上にバネがあり、これがサスペンションです。
サスペンションは、車輪が地表から受ける衝撃を和らげてくれます。
つまり、サスペンションがしっかりしていれば、どんな悪路を走っても車内は静かです。
一方、サスペンションがなければ、車内の乗り心地は最悪のものになります。
地獄です。
ヴァイオリンを演奏して、「聴くに堪えない素人」か「まあ聴けるレベル」かの分かれ目は、この辺にも潜んでいます。
つまり、一聴してげんなりされる演奏は、たとえば音程があっていたとしても(もっとも音程があっていない演奏の方が圧倒的に多いのが現実ですが・・・)、音楽がガタガタで、乱暴で、気持ちよくならない。
サスペンションのない車は、突然、跳ね上がったり、突然、横揺れしたり、先が見えない動きをします。
しかもその動きが一回一回、激しい。
それと同じです。
聴く方はひたすら不快。
こうした不快をなくすのが、指弓の技術です。
右手をいつもサスペンションとして働かせることで、音量や勢いをコントロールできます。
ヴァイオリンの指導書などでは、この指弓は、弓を返すときにその境をなくす技術として紹介されたりしていますが、いやいや、演奏のあらゆる局面で基本となる技です。
たとえば、素早く弓を上げて、激しい音で始めるときや、激しい音の後、静かに奏でるときなど、実はこの指弓ができていないと、思い通りにコントロールできません。
しかし残念ながら、こうした解説をしている教本を見かけたことがありません。
この指弓で、特に重要な役割を果たすのが小指です。
小指は丸めて、指の先端を、弓の端の方に突き立てるように置きます。
この小指は、サスペンションの要となるバネになります。
というのは、弓の先端からの重さが全部この小指の先端にかかってくるわけで、そのため、小指にはそうした重さを支えるための筋力が必要です。
かといって、小指にかかる重さは、弓を動かせばころころ変わっていくわけで、変わる負荷に合わせてしなやかに対応を変える柔軟性も必要です。
ただしっかり押さえていればいい、というわけでもないんです。
なにしろバネ、ですから、小指が突っ張ってしまっていたら、もうこれはバネにはなりません。
なので、小指は通常の持ち方のときには、丸く曲がっていなくてはいけません。
指弓は、指の関節を伸ばしたり、曲げることだけで、弓を動かすわけですが(このさい、手首も肘も動かしてはいけません)、小指が伸びたり曲がったりするのと同時に、ほかの中指と薬指の関節もしっかり動いています。
右手の指全体がバネになるわけです。
これはいまだに練習し続けています。たぶん、ずっとやり続けることになるんじゃないだろうか。
そして次に取り組み始めたのが、「楔(くさび)」です。
セブシックのOP3には、最初に指弓だけで演奏する箇所が出てきます。
そしてすぐによく見かけるようになるのが、「楔」。
音符についている、尖った逆三角形のマークを、私はこう呼んでいます。
楔は、強いて言えば、「一番強いスタッカート」です。
大きく言えばスタッカートなのですが、ヴァイオリンには、その奏法によって、同じスタッカートでも種類がいくつもあるんです。
特にこの「楔」は、やり方が決まっています。
音が出る前に、弓を弦にしっかり押し当てて、擦ると同時に力を抜きます。
正しい楔は、弓を動かす前に、もう弦に弓の毛が押し付けられているので、動かすとき「ゴリッ」っという非常にきつい音がします。
まさに楔を打ち込むような激しさです。
その後、一挙に力を抜いて、その激しさをなくします。
この楔が難しいのは、たいてい、弦に弓を押し付けるのが弦を擦るのと同時か、もしくは弦を擦り始めてから力を加えることになりやすいから。
そうすると、これはただのスタッカートであって、楔ではありません。
セブシックOP3には、この楔が山ほど出てきます。
なぜでしょうか?
それは、人差し指のコントロールの訓練だからです。
先ほどの指弓は、小指を中心とした薬指、中指の関節の技でした。
一方で、この楔は、人差し指の技で、一番基本的で、かつ難しい技術です。
思うに、楔の技術が重要なわけではなく(いくつもあるスタッカートのバリエーションのひとつにしか過ぎません)、重要なのは、ここで使われる人差し指の技術です。
そして、この人差し指の技を習得するのに、てっとりばやいのが楔の技を習得する訓練だということなのです。
人差し指の技、と書きましたが、機能的に正確に言えば、これは「人差し指と親指の技」です。
では、この人差し指の技にはいったいどういう役割があるのでしょう?
強いて言えば、自動車で言えば、アクセル操作の技術であり、ハンドル操作の技術です。
ヴァイオリンの演奏において、あまり教則本にも語られていませんが、人差し指は、フレーズやメロディの表情などをコントロールする役割があります。
人差し指は、右手の中指や薬指と同様、弓の上に置かれているようにも思えます。プロの右手を見ても人差し指は動かないので何もしていないように見えます。
しかし、人差し指の役割は中指や薬指と明らかに違います。なぜなら、人差し指は、弓が弦にかける圧力を生み出すことのできる、唯一の指だからです。
見た目には、弓の上に置かれているように見える人差し指ですが、イメージとしては、人差し指は弓そのもの、なんです。
というか、人差し指と弓が感覚的に同化していないと、細かい弓のコントロールは無理です。
演奏者は、人差し指の感覚で、弓をコントロールしています。
ところが、人差し指の感覚は訓練するのになかなか難しい。
私の場合は、師匠にまず弓の持ち方を直されました。
正しい弓の持ち方ができていないと人差し指の訓練はできません。
私の師匠は非常に優秀な方なので、私が楔に苦労しているのをじっと見て、ある日、弓の持ち方の矯正器具を紹介してくれました。(ありがたい話です)
この矯正器具を使って分かったこと。
人差し指は、弓に巻き付けるぐらいの気持ちで、しっかり力をかける。
そしてもっと大事なのは、その人差し指からの圧力を受け止める親指なんです。
弓のコントロールは人差し指で行いますが、人差し指ができるのは力を入れたり力を抜いたりすることだけです。
そして、ここでもサスペンションが重要になってきます。
人差し指が激しく力の増減を繰り返すほど(ただし見た目には、力を加えているのはわかりません)、放っておけば、弓の動きは乱暴になる。
その人差し指からの強烈な力の増減を受け止めながら、柔らかくコントロールするのが、人差し指の下、弓を挟んで反対側から支える親指なんです。
つまり、弓において親指は、人差し指の力の増減のサスペンションになっているのです。
きちんと弓を持てていないケースの典型例がいくつかあります。
①そもそも人差し指を弓に置いているだけ⇒人差し指はアクセルにもハンドルにもなっていません。
②人差し指で弓にきちんと圧力をかけているが、親指が反り返ってしまっている
⇒サスペンションであるはずの親指にバネとしての機能がなくなっている
そう、親指は反ってしまってはいけません。
小指がバネとしての役割を果たすべく、丸まっていたのと同様、親指もバネですから、丸まって曲がっていなくてはならないのです!
そしてバネとして繊細に機能するためには、弓と接するのは親指の先端となります。
これもバネとしての小指と同じです。
バランスをとり、どんな変化にも対応するには、べたっと指の腹で接していては役立たずなのです。
ということで正しい弓の持ち方をしていると、親指の先も痛くなります。
さて、人差し指できちんと弓に重みを乗せ、反対側で支える親指がちゃんと関節を曲げた状態でバネとして機能しているーーーーー
こうした正しい弓の持ち方ができたとしましょう。
ここからは人差し指の訓練です。
師匠に聞いたら、人差し指の感覚をチェックするために、全弓で、最初は力を入れずに、だんだん人差し指の力を加えて音量を増していく、なんてことも行うそうです。
しかし人差し指で一番面倒なのは、素早く、適切なタイミングで力を入れて抜く技術です。
これが楔です。
まず難しいのは、弓を動かして音を出す直前に、すでに人差し指で力を入れておくこと。
メトロノームで毎回、同じように人差し指が反応できるようになるにはかなりの訓練が必要です。
しかも最初はゆっくり確認して行う練習も、だんだん、メトロノームのスピードを上げていき、それでも精確にできるようになる訓練が必要です。
しかしこれができるようになる、ということは、人差し指の感覚がかなり繊細になった、ということです。
当然、人差し指を使ったほかの技の習得、たとえば弓を飛ばす技なども容易になります。
また、ただのスタッカートでも、人差し指の反応が鋭くなることで、音の切れが格段に増しますし、連続するスタッカートなどでは、それぞれの音の粒が揃って、美しくなります。
もちろん、一音一音に表情をつけることが可能になりますから、音楽の表現力も向上します。
要は、指弓と人差し指の技術がある程度になれば、小曲を弾いても、「素人ではないな」と思わせることができるようになる、というわけです。(もっとも、それ以前に音程はもっと重要ですが)
蛇足ですが、師匠とも話して同意してもらった話。この弓の訓練、包丁の技術に似ています。
最近では、包丁を使う時、刃の背に人差し指を乗せて切っていますが、この感覚などは非常に弓の人差し指と似ています。プロのキャベツの千切りが、精確に速く行われなければならないのと同じです。
できるようになるには、かなりの訓練が必要です。
まあ、解決策は地道な訓練しかありませんし、簡単でもありませんので、のんびり、このふたつの訓練を
していきます。