秋が近づくと、虫の音に心が安らぎますね。日本には童謡『虫の声』(「ああおもしろい 虫の声」というあの歌)まであって、虫の音は立派な秋の風物の一つです。ところが、ここ北米では虫の音は騒音だと考えられています。私の友人(イタリア系カナダ人)にとても優しくて明るい女性がいるのですが、彼女でさえ虫の音はノイズと言ったのを聞いて少しがっかりしました。私が高校生の時に使用した古典の参考書にも、カエルや虫の声はアメリカ人にとって騒音でしかない(確かにカエルは田んぼで夜一斉に鳴くのを聞くとうるさいですね)、それをめでるのは日本人だけだというような一節があったのを覚えていますが、その通りのようです(アメリカもカナダも北米文化圏)。同じように四季はあっても、文化や育つ環境の違いで秋の虫の声を音ととらえるか騒音ととらえるかの差が出ます。北米にはお花見、お月見、紅葉狩りもありません。先日も「今夜はきれいな満月ね。」と娘と外に出て少し眺めましたが、翌日のヤフージャパンのトピックスの写真を見、夫からも指摘されて初めて仲秋の名月だったことに気づきました。



遠くカナダに住んでいても虫の音に心が安らぐたびに日本人でよかった、と思います。私の娘は半分だけ日本人ですが、幼いころに日本から取り寄せた四季に関する歌のビデオ(カラオケつき―さすが日本製品)で童謡『虫の声』を見聞きしたおかげでしょうか、虫の音の良さのわかる子に育っていてほっとしています。海外にお住まいのみなさんのお子様はいかがですか。季節の風物の豊富さは日本文化の特徴の一つです。俳句はわずか五七五の音節数をもつ世界で一番短い形式の詩ですが、必ず季語を入れなくてはならないという規則があります。英語でも俳句作りは行われます。日本人が5人くらいしか住んでいない(当ブログの『バイリンガルになるのにふさわしい街(その2)』参照)ここカナダ・オンタリオ州ウィンザー市の公立図書館の今年の夏の子供向けプログラムにHaikuがありましたが、日本人と比べて季節感の乏しい北米人が本当に季語を入れて俳句を英語で作れるか疑問だったので、参加しませんでした。



帰国生入試作文・小論文でもよく日本と海外の違いが出題されます。このような一見漠然とした課題でも季節感の違いという身近な例を挙げるだけで、迷わず取り組むことができます。前回の『バイリンガルになるのにふさわしい街(その4)』で説明した通り、文章力をつけるには、普段の読書も欠かせませんが、志望校の出題傾向に沿って題材を頭に入れて書く練習をしておくのもとても大事です。入試では限られた時間内に課題に沿った作文・小論文を仕上げる必要があります。課題を見てまず何を書くかメモをし、それに沿って時間内に仕上げます。メモに要する時間は5分くらいにとどめておかないと、最後まで書き切れなかったり、書き切れても見直しできなかったりします。普段から題材が頭に入っていれば、素早くメモが書け、作文・小論文を書き出し、見直しの時間もとることができます。 



さて、秋の季語キリギリスといえば、みなさんは何色を思い浮かべますか?もちろん、緑色?私もキリギリスは当然緑色であって他の色のものなど考えたこともありませんでした。先日、娘と地元のオジブウェイ自然センター(Ojibway Nature Centre)(注:カナダ英語の綴りはイギリス式なのでCentre)のイベント、花蜜祭り(Nectar Festival)に参加しました。屋外で専門家が調査する、花の蜜を吸いに来たハチドリを間近で観察させてもらった後、野鳥や虫のスライドショーを楽しむためにセンター内に入り、スクリーンに表示された虫の写真を見てびっくりしました。ぜひこちら(http://www.ojibway.ca/orthoptera.htm )のページをスクロールダウンしてOblong-winged Katydid (pink morph)を見てください。こういう色のキリギリスは北米特有なのかと思いましたが、日本でも見つかることがあるようです。違いがあるって本当におもしろいですね。