長き夜を たたる将棋の 一手かな  ( 幸田露伴 )

      (注) 一手差し違えたばかりに負けた将棋の悔しさ

 

    空をあゆむ 朗朗と 月ひとり    ( 荻原井泉水 )

 

    音もなく 母寝て卯の花 月夜なり  ( 古賀まり子 )

 

    人それぞれ 書を読んでいる 良夜かな  ( 山口青邨 )

 

        玉の如き 小春日和を 授かりし   ( 松本たかし )

 

    大根(ダイコ)引き 大根で道を 教えけり  (小林一茶 )

 

    大雪の 夜は千代紙の だまし舟  ( 奥村美那子 )

 

・ 人間には無限の可能性がある。ただそれは、いつ途絶えるかも

 しれず、今この瞬間に終わるかも知れない。

 

・ 時間は無駄に過ぎたわけではなく、人間は無駄に年を取った

 訳ではない。

 

・ 桂はその時、独りきりだという事を痛切に感じた。原始の未開の

 人間達が、凶暴な野獣の遠吠えを耳にしながら、暗黒の夜の中

 で感じたような、凍りついた孤独を感じた。

 

・ みんなもう死んでしまった。昔、はづんだ声をして、僕たちは何を

 話していたのだろう。何を夢み、何を望んでいたのだろう。それは

 もうあまりにも遠いことだ。

 

・ 僕がいなくなっても、蝉の声はやはりしているだろう。空には

 白い雲が流れているだろう。

 

・ 人はいつどこで誰に会うか分らないし、会ってどうなるかも

 分らないんだよ。

 

・ 私は言葉を飾って、それを語るつもりはない。

 

      笛や太鼓に誘われて

      山の祭りに来てみれば

      日暮れはいやいや里恋し

      風吹きゃ木の葉の音ばかり

 

                   酒を勧む   ( 干武陵 )

      君に勧む 金屈巵(キンクッシ=金属製の杯)

      満酌 辞するを須(モチ)いざれ

      花発いて(ヒライテ) 風雨多し

      人生 別離足る(別離というものは避けがたい

                 ものだから)

 

         鍾山即事   (  王安石 )

      澖水 聲なく竹を繞って(メグッテ) 流れ

      竹西の花草 春に弄れて(タワムレテ) 柔らかなり

      茅檐(ボウエン=粗末な我が家)に対して 坐すること終日

      一鳥鳴かず 山更に幽なり

 

         廬山の瀑布を望む  ( 李白 )

      日は香炉を照らして 紫煙を生ず

      遙かに看る 瀑布の長川に掛くるを

      飛流 直下 三千尺

      疑うらくは 是れ銀河の 九天より落つるかと

 

         山水詩   ( 柳宗元 )

      漁翁 夜 西巌に傍って(ソッテ) 宿し

      暁に 清湘を汲んで 楚竹を燃く(タク)

      煙 銷え(キエ)  日出でて 人を見ず

      欸乃(アイダイ=櫓の音) 一声 山水緑なり

 

          ふるさと   ( 三木露風 )

        ふるさとの

        小野の木立に

        笛の音の

        うるむ月夜や

        

        少女子(オトメゴ)は

        熱きこゝろに

        そをば聞き

        涙流しき

 

        十年(トトセ)経ぬ

        おなじこころに

        きみ泣くや

        母となりても

 

     かにかくに 渋民村は恋しかり

        おもひでの山 おもひでの川   ( 石川啄木 )

 

     いのちなき 砂のかなしさよ

        さらさらと 握れば指の間より落つ   ( 同 )

 

     ふるさとの 訛(ナマリ)なつかし

        停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく ( 同 )