素朴な琴  ( 八木重吉 )

      この明るさのなかへ

      ひとつの素朴な琴をおけば

      秋の美しさに耐へかね

      琴はしづかに鳴りいだすだろう

 

         母をおもふ  ( 同  )

      けしきが

      あかるくなってきた

      母をつれて

      てくてくあるきたくなった

      母はきっと

      重吉よ重吉よといくどでもはなしかけるだろう

 

          橋     ( 高田敏子 )

      少女よ

      橋のむこうに

      何があるのでしょうね

 

      私も いくつかの橋を

      渡ってきました

      いつも 心をときめかし

      急いで かけて渡りました

 

      あなたがいま渡るのは

      明るい青春の橋

      そして あなたも

      急いで渡るのでしょうか

 

      むこう岸から聞こえる

      あの呼び声にひかれて

 

・ 私ひとりでは何も出来なかったろう。神が助けてくださったのだ。

 

・ 孤独で淋しくやゝつまらなくはあるが、それでも平和で幸福だ。

 

・ 人はきわめてよく生きている時には、何故に生きているのかを

 問わないものである。生きるがために生きているのである。

 生きることはすてきなことであるが故に生きているのである。

 

・ 「老化は徐々にではなく、ガクンとくる」というけれど、まさにそれ

 を実感する今日このごろである。 ( 草刈正雄 )

 

・ 年をとったら、自分の生きやすいように生きればいい。世間体や

 健康を気にして縛られるのはやめたほうがよい。

 

・ 唐沢は美子の笑顔にずっと支えられてきた。人生にはいいとき

 もあれば悪いときもある。仕事に行き詰まって、限界を感じたとき

 もあった。そんなとき美子の笑顔にどれほど励まされたことか。

 照れが先にたって口にこそ出さないが、彼は人生を伴走してきて

 くれた美子に心から感謝していた。

            ( 柚月裕子 「盤上の向日葵(ヒマワリ) 」 )

 

・ あゝ主人ね。もう大分前にあっちに行ってしまって、私だけが

 のこされてしまったの。主人が逝くときに、早く迎えに来てねって

 云ったのに未だに来てくれない。…美子の白髪が銀色に光る。

 物静かな話し方や品性を感じさせる雰囲気から、老婦人という

 言葉が似つかわしいと佐野は思った。 ( 同  )

 

・ そうだ。私はあなた達を知っている。私はついにあなた達に

 めぐりあった。

 

・ 休息なさい。すべてがよいのだ。

 

・ あゝ何という麗しい日なのだろう。

 

・ 空気は気持ちよく暖まっていて、蜜蜂の羽音が響いていた。


  

      春 暁  ( 孟浩然 )

      春眠暁(アカツキ)を覚えず

      処処に啼鳥を聞く

      夜来風雨の声

      花落つること知る多少

 

        絶 句  ( 杜 甫 )

      江碧(ミドリ)にして 鳥渝々(イヨイヨ)白く

      山青くして 花燃えんと欲す

      今春看々(ミスミス)又過ぐ

      何れの日か 是れ帰る年ぞ

 

       黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ユ)くを送る (李 白)

      故人西のかた 黄鶴楼を辞し

      煙花三月 揚州に下る

      孤帆の遠影 碧空に尽き

      唯だ見る 長江の天際に流るるを

 

        蛾眉山月の歌 ( 李 白 )

      蛾眉山月半輪の秋

      影は平羗(ヘイキョウ)江水に入りて流る

      夜 清渓を発して三峡に向ふ(ムカウ)

      君を思えども見えず 渝州に下る

 

    啄木鳥 (キツツキ)や  落葉をいそぐ 牧の木々 (水原秋桜子)

 

  咳の子の なぞなぞあそび きりもなや ( 中村汀女 )

 

  分け入っても 分け入っても 青い山  '( 種田山頭火 )

  

  うしろすがたの しぐれてゆくか  ( 同  )

 

  是(コレ)がまあ つひの栖(スミカ)か 雪五尺  ( 小林一茶 )

 

・ 人は予を捨てゝ去りぬ。予も彼らを捨てゝ彼らのことを述べじ。

 

・ 臆病さのために、自信の念の乏しさのために、愛されているのを

 信ずることも出来なかったし、愛している様子を示すこともでき

 なかった。そして幸福はつかまれずに過ぎ去ってしまった。

 

・ あゝいかに多くの人知れぬ悲劇が、外観は至って静穏・平凡な

 生活の奥に隠れている事だろう。

 

・善良な者になることだ。利己心の胸当てを取り去り、よく呼吸し、

 人生を、光明を、自分の貧しい仕事を、自分が根を下ろしている

 一隅の土地を愛することだ。