・ 新ちゃんが不平や人の悪口を言ったのを聞いたことがない。その上いつも明るい言葉遣い、無心の顔をしている。( 太宰 治 )

 

・大きい庭下駄をはいて、団扇を持って月見草を眺めている少女は、いかにも弟に似つかわしく思われた。   (  同  )

 

・ 己を嘲るのはさもしい事だ。それはひしがれた自尊心からくる。人から言われたくない故に、まずまっさきに己の体に釘を打つ。それこそ卑怯だ。もっと素直にならなければいけない。 (  同  )

 

・ けさから五月。そう思うとなんだか少し浮き浮きしてきた。  (  同  )

 

・ ブリッジの階段をコトコト昇りながらナンジャラホイと思った。馬鹿馬鹿しい。私は少し幸福すぎるのかもしれない。  (  同  )

 

・ まあまあ目立たずに、普通の多くの人たちの通る路を黙って進んで行くのが、一番利口なのかもしれない。  (  同  )

 

・ 私たち親子は美しいのだと、庭に鳴く虫にまでも知らせてあげたい静かなよろこびが、胸にこみ上げて来たのでございます。    (  同  )

 

・ 全く 勝利もなければ敗北もない。… まだほのぼのとかすんでいる青春の夢におびえながら、人生の花道をうろついているのは、彼らだけである。  ( 尾崎士郎 「人生劇場」 )

 

・ 私はその人柄のうちに、いくらか老人的なものを持っている青年を好ましく思う。

 

・ 与えられた場所で生きられない人間は、何処に行ったって生きられないよ。

 

・ 君知るや 我はこれ 人生に舞い落つる 一片の木の葉に似たり

 

         も み ぢ 葉   ( 佐藤春夫 )

       日は暮れ風ふき

       枝に落ち葉や

       もゆる思いは

       君に知られで

 

   みじろがで わが手にねむれ

     あめつちに 何事もなし 何の事なし   ( 若山牧水 )

 

   単衣(ヒトエ)着て こゝろほがらになりにけり

         夏はかならず われ死なざらむ   ( 長塚節 )

 

   青桑の あらしの中に 人呼ばふ

            女の声の 遠き夕焼け    ( 太田水穂 )

 

   事もなう いとしずやかに 暮れゆきぬ

         しみじみ人の 恋しきゆふべ   ( 若山牧水 )

 

   夏休み 果ててそのまま かへり来ぬ

         若き英語の 教師もありき    ( 石川啄木 )

 

   幼きは 幼きどちの ものがたり

       葡萄のかげに 月かたぶきぬ   ( 佐々木信綱 )

 

   葛の花 ふみしだかれて 色あたらし

          この山道を 行きし人あり     ( 釈迢空 )

 

・ 絶へず月光が恋しいような感傷的な海の旅。唯青く遠きあたりは たとふれば古き想ひで。舷側に白く泡だって消えて行く水沫

(ウタカタ)はまた、けふの日の我のこゝろか    

          ( 田中英光 「オリンポスの果実」 )

 

・ さようなら 私はあなたの友ではない。あなた達は美しかった。

  ( 太宰治 )

 

・ 明日もまた同じ日が来るのだろう。幸福は一生来ないのだ。 

  (  同  )

 

・ およそすべてのわずらいに処するに 二つの薬がある。 曰く時 曰く沈黙。

 

・ 人間も本当によいところがある。花の美しさを見つけたのは人間だし、花を愛するのも人間だもの。

 

・ ごめんなさい。私だって何にもものを知りませんけれども、自分の言葉だけは持っているつもりなのに。

 

                胡茄(コカ)の歌 ( 一部 )    參 (シンシン)

      崑崙山南 月斜めならんと欲す

      胡人 月に向かって茄を吹く

      胡茄の怨や 将に君を送らんとす

      泰山遙かに望む 隴山の雲

      辺城夜々 愁夢多し

      月に向かって胡茄 誰か聞くを喜ばん

 

          十有三春秋  ( 頼山陽 )

        十有三春秋  逝く者は水の如し

        天地始終無く  人生生死有り

 

           江南の春    ( 杜 牧 )

         千里鶯啼いて 緑 紅に映ず

         水村山郭 酒旗の風

         南朝四百八十(ハッシン)寺

         多少の樓臺 煙雨の中(ウチ)