赤ちゃんことばにも方言がある。
それを知ったのは
子育て中の友人たちと同じ時間を過ごしているときだった。
「はい、ここにおっちゃんこして」
北海道出身のNちゃんが言う。
初めて耳にしたときは、冗談ではなく
口がぽかんと開いて目が点になってしまった。
今の、何?
耳慣れないコトバに、一時思考停止。
「聞き間違えたかな?」と、無意識になかったことにしようとする私がいた。
こういうときに起こる無意識の自分の反応っておもしろい。
なかったことになんかならないっつーの!
その後、彼女たち親子のやりとりを観察していくうちに
答えは自然に見つかった。
「おっちゃんこ」と口にするとき
Nちゃんは必ず、小さい椅子か床をぽんぽんと叩いている。
そして娘のYちゃんはそこにやってきて座るのだ。
なるほど~!
『おっちゃんこ』って、『おすわりして』っていうことか~!
納得納得。
でもこの『おっちゃんこ物語』、ここで終わらなかった。
同時期、同じ社宅内でもう1人
Aちゃんも子育て真っ最中だった。
「ご飯食べるよ~!おっちゃんして~」
NちゃんとAちゃん、2人の声が飛び交う…のだけれど。
ん?
『おっちゃん』?
『こ』は?
『こ』がない!
よくよく聞いていると、Nちゃんが『おっちゃんこ』と言うのに対し
Aちゃんは『おっちゃん』と言っているのだ。
同じようなコトバを使っている。
(私は知らない)
でも、微妙に違う。
何だろう、これ?
とても不思議だった。
不思議だったのは、2人の使うコトバが微妙に違っていたからだけではない。
Nちゃんが北海道出身なのに対し、Aちゃんは九州出身。
日本の北と南で、似たような言葉を使っているのだ。
その中間地点出身の私が、まったく耳にしたことのない言葉を。
『おっちゃんこ』と『おっちゃん』
どこから来たコトバなのか。
何故東京では耳にしたことがないのか。
不思議な気持ちを抱きながら、私は2人の娘たちと遊んでいた。
しばらくして帰京した際、義弟の家へ遊びに行った。
やはり子育て中だった義弟夫妻。
奥さんのCさんが言う。
「ちゃんこして」
衝撃が走った。
『ちゃんこ』?!
『おっちゃんこ』でも『おっちゃん』でもなくて、『ちゃんこ』??!
顔は平静を装いながら、私の頭の中はものすごいスピードで回転し始める。
Nちゃん → 北海道 → 『おっちゃんこ』
Aちゃん → 九州 → 『おっちゃん』
Cさん → 四国 → 『ちゃんこ』
『おっちゃん』+『ちゃんこ』=『おっちゃんこ』?
九州+四国=北海道??
もはや意味不明な計算式が頭の中を駆け巡っていた。
そして数年後の今年。
「東京で『ちゃんこしなさい』と言ったのに子どもが座らず
なんてお行儀の悪い子だろうと思っていたら 実は通じていなかった」
という体験談を耳にした。
そう。
おそらく東京の子は知らない。
知らないから、そのコトバに意味が伴われていない。
だから当然、言われても座らない。
おっちゃんこ、おっちゃん、ちゃんこ…
似た言葉は他にも日本各地にあるらしい。
この『おっちゃんこシリーズ(私が勝手に命名)』で日本地図を作ったらおもしろそう!
というわけで、各地の情報をいただければ嬉しいな♪
ちなみに我家は子どもに対して「座りなさい」と言うとき
『おすわりとん』と言うのだけれど…
これってどこかの地域のコトバ?
それとも、母の造語??
当然、我が妹は自分の子どもたちに使っている。
「おすわりとんして~!」